稽古場日誌

その他 鹿沼 玲奈 2020/12/14

知らない世界を見たいんです

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新型コロナウイルスの出現によって、世の中から演劇をやる意義が問われております。
そんな中、今年も研修生が集まってくれました。その中には、それぞれに様々な理由や決断があったことでしょう。
そこで、今回の劇団員による稽古場日誌は「何故ワタシは演劇をやるのか」をテーマとして、今年度の研修生を応援していきます。
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ヌボ~ッと生きていても色々な出来事が起こる昨今ではありますが、演劇に触れていると、もっと衝撃的な「こんなの知らねーぞ!」に出会えます。
舞台上というのは基本的に、台本に書かれた予定調和の空間です。
俳優もスタッフもつくっている側は、お芝居が始まってしまえば次に何が起こるかを把握しています。
でもたま~~~に、ごくたま~~~に、それが狂う瞬間があるのです。

例えば、本番直前のリハーサル中。
台詞をとちったり、出番を忘れたり、物を落としたり……いろいろ狂うことがあるのですが、その時稽古場中が「あちゃー」という『陰』の空間になるのではなく、『陽』の空間になることもあるのです。
番狂わせによって、物語がより鮮やかに見えるようになったり、新しい演出のイメージが生まれたり、俳優の個人的なモヤモヤが解決して、素晴らしい演技ができたりするのです。
これは奇跡の瞬間で、なかなかお目にかけられません。
そしてそれは実際には、ただの偶然に起こるものではなく、必ず、それまでの稽古の絶え間ない努力や積み重ねや、作品に向かう真摯な姿勢、試行錯誤の蓄積が空間にある時に発生するのだと思います。
今までつくってきたものが、より素晴らしい方向へ転換する瞬間。
キラッと世界がきらめく瞬間。
「嘘だろ?!」とお腹の中が熱く燃えて、なんだか笑えてくる『陽』の瞬間です。

食べたことのないものは食べてみたい。
行ったことのないところには行ってみたい。
見たことないものは見てみたい。
そんな私が夢中になって喰らいつくのは「限りなく予定調和である」という前提の世界の中で、ごくたま~~~に、全くあずかり知らないことが起こってしまうのが楽しくて仕方ないからです。
ちょっと中毒気味なのでしょうか……私生活でギャンブルに手を出さない理由は、もうすでに演劇で体験しているからなのでしょうか。(笑)
研修生にも、しっかり稽古してもらって、いつか訪れるその瞬間を味わってもらいたいです。
陰ながら、応援しています。

鹿沼玲奈

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