稽古場日誌

池上show劇場【DELUXE】 山本 芳郎 2021/08/11

公演に向けて 2〜文学に触れる興奮

そんなわけで今回、ベテランから若手までそれぞれが「一人芝居」をやるということで、題材として主に近代の短編小説に挑みます。
戯曲とは違い、俳優にとっては声や語り方や言葉との距離など、普段とは少し違ったアプローチになるかと思います。孤独な作業です。

ところで、一人で文学に触れるときに思うこと。
そもそも読書ってエネルギーがいります。
面白いはずだけど、普段から読書慣れしてないと取っつきにくい面もあります。
その作家独特の文体のリズムに慣れるまでがストレスです。
言葉遣いや言い回しが難しかったり、まず旧漢字とか読めないし。
長大な作品はもちろん短編でも、教科書に出てきたりする文豪と呼ばれるような近代作家の作品は、普段馴染みのない言葉ばかりで、特に明治期の文語調の文章とかだと日本語なのにまるで外国語です。

なぜそうなるのか……文豪の作品だから?
そうではないと思います。
文豪がわざと難しい言葉を使って作品を書いたのではなくて、実は文豪たち自身が迷っていたのだと思います。

当時の日本の問題や急激に変わっていく社会、新しい時代に生きる人々の声を掬い上げるような、新しい「ニホンゴ」を作ろうとして格闘していたのだと思います。
万葉集のころから受け継いできた日本人独特の感性を活かし続けながら、明治以降に外国から輸入された新しい概念などをどうやって取り入れていこうか。
従来の漢文とも折り合いをつけながら、どうやって自分たち日本人の情感を表現していく新しいハイブリッドな「ニホンゴ」を作っていこうか。
みんなものすごく苦しんでいたんだと思います。

だから文豪と呼ばれるのだと思います。

自分の作品に対して興奮しながら、「新しい感覚の文体だけど、読みにくいし果たしてクリアに伝わるのか?」と感じていたのは、文豪たち自身だったかもしれません。
そんな風に見ていくと、一見取っつきにくい近代文学も少しハードルが下がるんじゃないかなと僕は勝手に思っています。
迷いと格闘の果てに生み出された近代文学の言葉はとても豊かで格調高いものです。
もちろん僕の俳優紹介のような稚拙な言葉とは大違いです。
現代においても新しい文体をもつ作家が次々と出てきて、「ニホンゴ」の格闘を続けているのではないでしょうか。

さて、そんな小説の言葉が今回の公演で俳優の体を通してさらに具体的に生き生きと動き始めます。
どんな格闘が見られるのでしょうか。たぶん自由な発想で、いろんな語りっぷりで迷っていれば面白いはずです。文豪たちが、格闘しながら興奮していたように。

なぜなら、俳優の体から繰り出される「ニホンゴ」の形なんて、令和の時代になった今もまだほとんど確立されてないわけですから。

山本芳郎

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劇団 山の手事情社 公演『池上show劇場【DELUXE】』
構成・演出=安田雅弘
日程=2021年9月17日(金)~19日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

公演情報詳細は こちら をご覧ください。
配信でもご覧いただけます。

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