稽古場日誌

池上show劇場【PREMIUM】 安部 みはる 2021/10/09

#織田作之助好きと出会いたい

『天衣無縫』はざっくりと説明すると、主人公の「政子」が見合いをして結婚する、ただそれだけを描いている。

これと言った重大事件は起こらない。調べても解説や感想文もほとんど出てこない。
昭和初期の大阪の庶民の生活を覗き見ているような、現代で言うところのブログのような作品だ。10人読んだとしたら9人は「ふうん」と通り過ぎてしまうに違いない。
でも私は通り過ぎることができなかった。
この作品の見どころのひとつは織田作之助の人物の描写力である。天才的な観察力だ。きっと実在のモデルがいるんだろうと思う。よく見てインプットして、本当に生き生きと作中に描き混んでいる。
「政子」の見合い相手に対する不満の数々にあるある、わかるよ、そうだよねと激しく共感し、見合い相手の「清正」のお人好しエピソードになんでやねん! とツッコミを入れる。織田作之助はとても愛妻家で、亡くなった最初の妻の遺髪と写真を生涯持ち歩いていたというので、夫婦というものについても実体験が描きこまれてるのかもしれない。
誰よりも楽しんで読んだと思う。平たく言うと、とても好きな小説なのである。
日常生活の中に起こる、ほんの些細な出来事。ともすると気付かずに通り過ぎてしまいそうな小さなことを大切に拾い上げ「なあ、おもろいやろ」と喫茶店で話して聞かせてもらったような感じだ。
そんな風に感じた10分の1の人物が私の他にもいるに違いない。
今回の「一人芝居」はそのたった“一人”のためだけに上演したいなと思う。
その人をひたすら楽しませたい、喜んでほしい。日本人全員でなくていいから。
そう願いながら稽古をしている。

安部みはる

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『天衣無縫』あらすじ

政子の見合い相手は、風采の上がらない底抜けのお人好しで、おまけに呑気で頼りない男性だった。
「いやだいやだ」と文句を言いながらも、政子はいつしかその男性と夫婦として暮らすことになる。
「天衣無縫」とは純真で無邪気、物事が完全無欠であること。
二人の日常を飾り気のない筆致で描いた、織田作之助の短編小説。

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劇団 山の手事情社 公演『池上show劇場【PREMIUM】』

構成・演出=安田雅弘
日程=2021年11月5日(金)~7日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

【PREMIUM】公演情報詳細は こちら をご覧ください。
【DELUXE】【PREMIUM】は 配信 でもご覧いただけます。

『池上show劇場【PREMIUM】』1 『池上show劇場【PREMIUM】』2

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