稽古場日誌

ニュージェネレーション 馬場 玲乃 2021/12/26

スプラッシュ

山の手事情社の稽古の中には、おぞましい《研究発表》というものがあります。
指定された研究内容について2ヶ月間チームで研究し、稽古場でどんな人にでも分かるように発表するというものです。

私のチームには、シェイクスピアについて研究しろという指令が下りました。
シェイクスピアは、謎だらけの作家です。
どこから手をつけていいか分からず発狂しそうでした。

そもそも私は、勉強というものが苦手です。
最初から答えは在るのにそれに向かって問題を解くということが、どうにもあべこべに思えるからです。

今回初めて自分で知識を仕入れ、感じたことを人に伝えるという作業をしました。
シェイクスピアのどの部分にスポットを当て、切り出してどう伝えるかは、私にとって大変な作業です。

しかし、それは、意外にも心ときめくものとなりました。

面白く伝えるという前提で調べものをすると、資料の見え方が変わってきます。
戯曲や文献を読んで、ときめいた部分をひたすらメモする。
そのメモを後日読み返して、分からない点や、より深く知りたい部分をさらにメモする。
また調べる。の繰り返し。
そうしていくうちに、ただの文字だったものに輪郭が生じ、そういう時代や人物が存在したということが事実として実感できるようになったのです。

例えば、当時のイングランドの宗教弾圧の処刑では、相当惨いことが行われていたのですが、これがどうしても言葉だけでは伝わらない……。
どうしたものか。
答えが出ないまま遂に発表の日を迎えてしまいました。

当日の朝、朝食をとる時間はなく、愛媛のおばあちゃんから送られてきたみかんをひとつ手に取り、家を出ました。
稽古場で一人、発表のリハーサルを行なっていても何か物足りなくて逃げ出したい気持ちでした。

もう私には何のアイデアも残されていない。
私の手に残っているのは……みかんです。
当日のぶっつけで、これでもかとみかんを八つ裂きにして処刑を再現。
何かしらの鬱憤も相まってやけに溢れ出る臨場感と果汁。
これだ、と思える確かな感触がありました。

そんなこんなで、白熱した発表は、思いのほか楽しかったです。

手からは、爽やかな香りが溢れ、初めての《研究発表》は甘酸っぱい思い出となりました。

馬場玲乃

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