稽古場日誌

タガが外れることは悪いことだと思っていた。ただそれは、その状態のよくない意味ばかりを捉えた私の一方的な勘違いだった。

なかなか調子が出ない私は今日も頭の中を右往左往。
どこへ行ってもなにも見つけられなくて、自分を縛りつけているものの正体さえもわからない。
そんな時、ただひたすら自分の好きなものに集中してみる。チョコレート、漫画、音楽、映画……。そして、どこが好きか語ってみる。なーんにも考えてなくても好きなことについて語ろうと思ったら口は止まることを知らない。びっくりするくらい滑らかに口が回って好きなものへの想いが溢れてくる。
あれ、タガが外れるってこういうこと?! 調子に乗ってる! これを稽古場でやればいいんじゃん!!
言うは易し、やるは難し。

いざ稽古場でやってみようと思っても、思うようにはならない。やってみようという思いが自分の思考回路を邪魔していることに気づく。
大事なのは「集中する」ことで「想いが溢れてくる」こと。
役の気持ちや身体に「集中する」と、役の「想いが溢れてくる」のだ。
役としての感情が素直に溢れてくる状態になるには、まず自分自身の緊張が解れていること。
ただし、感情だけでやってはいけない。表現にするにはコントロールすること。これが役者に求められるもの。
経験のないことを表現する場合でも「経験がないからできない」は言い訳。役者とはそういう者。
自分が経験したことがないことを説得力をもって観客に提示するために、まずは自分が理解を深めて、コントロールすること。そこで初めて表現として成立する。

「タガが外れる」の意味って、緊張が解けて感情が溢れることって意味にも捉えられるのだ。
「調子に乗る」には物事が順調に進むって意味もあったのかと稽古を通して気がついた。

日に日に近づいてくる公演の足音に、どきどきしながら、今日も自分の箍の外し方を試行錯誤している。
舞台の上で、箍が外れて調子に乗った自分を観てもらうために。
きっとそれは、普段の生活では目にすることのできない姿だろう。

酒井千秋

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『ほんのりレモン風味』omote

ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』
日程:2022年2月23日(水・祝)~27日(日)
会場:大森山王FOREST

詳細は こちら をご覧ください。

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