稽古場日誌
レモンと言うとさわやかな酸味のある、青春時代しか思い浮かばない。この歳になるとレモンと言うより香木のような毎日だ。
私のレモン時代は強いて言うなら高校時代かもしれない。
この時の夢は「プロ野球選手」。
プロ野球の世界に行くことを真剣に考えていた。
高校は甲子園常連校の関東第一に通い、硬式野球部に所属していた。
9人しか試合に出られないのに部員は100名を越え、全国から優れた生徒が集まっていた。ほとんどの生徒は寮生活。
私は推薦入学ではなく一般入試で入学したため、自宅→学校(東京都江戸川区小岩)→球場(千葉県白井市)の行き来でヘトヘトな毎日だった。
野球には少し自信があった。
関東第一の硬式野球部には入部するのに試験がある。キャッチボールから始まり、長距離走、短距離走、遠投(ボールを遠くに投げる)。
遠投では高校1年で硬式ボールを85m投げ、スピードも127キロが最速だった(おそらくそこそこ良い能力)。
だがプロの世界はそんなに甘くない。
周りの同級生は体格からもう違って、目がギラギラしていて、先輩(のちに広島東洋カープに入団する、山崎健さん)の投げる球は横から見ていても全く見えなかった。
人生ではじめて大きな挫折を味わった。
その後、左足を怪我してしまい、退部することになった。今思えば怪我を理由にして野球から離れたかったのかもしれない。
あまりにも違う実力の差に心から「負けた」と思った。
退部した数日は何か重荷が降りた気がしてスッキリしていた。しかし数ヶ月経つとそれが後悔へと変わり、夢を捨てた自分が嫌いになっていた。
これが私のレモン時代。さわやかでもなければ甘酸っぱくもない。
苦渋、辛酸といった方がいいかもしれない。
だが、その後悔がその後の負けず嫌い、猪突猛進さを強くしたのかもしれないと思うと、
プロ野球選手の夢は来世にするとして、
当時必死に生きた自分に感謝申し上げたい。
ありがとう。
そしてこれからプロの俳優になるニュージェネレーションの皆さんにも中途半端でなく、心底苦しさを味わって前に進んでいくことを心から応援したい。
浦 弘毅
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ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』
日程:2022年2月23日(水・祝)~27日(日)
会場:大森山王FOREST
詳細は こちら をご覧ください。