稽古場日誌

かもめ ルーマニアツアー 安部 みはる 2023/06/07

進化し続ける『かもめ』

何年も前に『かもめ』の第4幕ラストシーン、ニーナがトレープレフの部屋にやってくる場面を若手劇団員でペアを組んで稽古したことを思いだす。
お風呂で毎日セリフをぶつぶつ練習したのが懐かしい。
ロシア語を翻訳した言葉は私たちが普段口にしている言葉とかなり違い、どうしたら自分の言葉になるのかがわからず苦労した。言語が違うと考え方も違うのか、国が違うとひとの性質も違うのか、どこの国のどの時代の人も同じ人間ではないのか……どうして自分の言葉にならないんだろうかと悩みまくった。
うーん……懐かしい。

とはいえ、『かもめ』は、非常に現代的だ。
「わたしの気持ちをわかってほしい」
「ひとは結局分かり合えない」
こんな普遍的なテーマが鮮やかに描かれ、分かり合えないことに悩む現代人にとって『かもめ』は共感しまくりの名作戯曲なのだ。

話は変わって。
港区白金台に、森があるのをご存知だろうか。
東京都庭園美術館のお隣で、「国立科学博物館附属自然教育園」という!
びっくりするほど森なので一度行ってみてほしい。そこには大鷹がいる。嘘だと思ったら本当にいる。常設の小型カメラで常時子育ての様子が見られる。
もちろん「剥製」も展示されている。
普段は見られないところにいる「本物」がすぐ近くに見られる感動と迫力がある。
ジュラシックパークを作りたい人の気持ちが少しわかる。
すげー! と声が漏れる。
「剥製」はすでに死んでいるけれど、生きていたんだというリアルな実感があるから不思議だ。

山の手事情社の『かもめ』も登場人物は「剥製」として描かれる。
「剥製」は死んでいるけれど、何かが生き続けているとも解釈できる。自分が生きていることを実感するのは、結局悩んでもがいている時だ。普段は見られない人たちや生活があたかもそこにあって触れられるように生々しく描き出せたら面白いだろうなと思う。そして乾いた体の中にはマグマのような感情がグツグツと沸き立っているのだ。

人間とか剥製とか、昔と今とか、いろいろなものが混在している山の手事情社の『かもめ』。ルーマニアの演劇人にも楽しんでもらいたい。

安部みはる

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『かもめ』ルーマニアツアービジュアル

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