稽古場日誌

稽古場 鍵山 大和 2023/09/13

僕の演劇、祖父のモノづくり

今年の夏は暑かった。特に東京の夏は暑い。暑すぎて、
「こんなに暑いのにどうして働かなくてはいけないのだろうか」
という疑問が何度も頭をよぎった。僕が働く理由は演劇をするためにお金がいるからだ。でもふとした時に思うのは、
「なぜ僕は演劇を続けているのだろうか」
ということだ。

今年の8月、僕は久しぶりに帰省した。熱烈に歓迎してくれる家族。その日の夕食はバーベキュー、支度をしていると祖父から 「バーベキュー用の机を作ったから、作業場から庭まで運ぶのを手伝ってくれ」 と言われた。

祖父は大工だった。僕の実家はなんと祖父お手製で、勉強机や本棚やテーブルまで手作りだ。僕の周辺にはいつも祖父の作ったものが溢れ、どれもどこか優しくて、僕はそれが大好きだった。 僕が小さい頃、祖父はいつも大工仕事をするための作業小屋にいて、僕が外から声をかけると何を作っているかを嬉しそうに教えてくれた。

そんな祖父も今では御年90で大工業からは引退をしているが、従兄弟の勉強机を作ったり、隣の家の雨漏りを直したりと、いまだに健在である。

バーベキュー用の机と聞いてわくわしながら作業場に行くと、そこにあったのは7,8人用のとても大きなテーブルだった。
この馬鹿みたいに暑い夏に一人でこれを作りあげたのか!

作業場から庭までテーブルを運んでいると
「このテーブルがおじいちゃんの最後の作品なんだよぉ」 
と祖父が言った。理由は、昔のように体も動かないこと、なによりも視力の大幅な低下により、今までのように作業が出来なくなったことである。

僕は祖父の引退宣言を聞き、寂しくなり
「うん」
と相槌をうった。
「そうだよぉ」
返事をする祖父。僕はふと聞いてみた。
「ねえ、おじいちゃんはなんで大工をやっているの?」 
僕が生まれる前、それどころか僕の父が生まれる前から大工だった祖父、大工であることが当然すぎて今まで1度も疑問に感じたことがなかった。祖父は、
「楽しいからだよぉ、おじいちゃんはなにか作ってる時、楽しくてしょうがないんだよぉ、生きがいなんだよぉ」
と少年のような笑顔で言った。笑った口元に歯は1本しかなかった。
「え、そうなの!?」
僕は驚いた。もちろん、文面通りのシンプルな理由だけではないと思う。しかし、家業だからとか、家族がいるからお金が必要でとか、手先が器用で向いているからとかじゃなくて、1番の理由が楽しいから、ということに僕は驚いたし、なぜだかとても嬉しかった。
それはきっと、
「祖父にとってのモノづくりと僕にとっての演劇は同じなのかもしれない」
と思ったからだ。

現在、僕の日々は決して楽なものではない。早朝バイトのために起床は早くていつも眠たい、稽古にいけばダメ出しの連続、友達と遊ぶ時間もお金もない、着たい服も着ることができない。
だけど、楽しいから続けられているんだ。
何もないところから作品ができていく興奮、この公演どうなるのか、面白くなるんだろうかという不安、舞台の上で一瞬でも気を抜くことができない緊張感 、ごくごく稀に自分の想像を超えてくる自分、そして演劇を真摯に作る仲間がいること、 そうやって出来上がった作品を見てくれるお客様がいる喜び。
それら全てが合わさって、楽しくてしょうがなくて生きがいになっているんだ。
だからいつまでたっても演劇をやめられないんだと思う。

半世紀以上も続けている祖父にとってのモノづくりに比べたら、僕にとっての演劇はまだまだちっぽけなものかもしれない。
だけど僕は生まれてから1番と言っていいほど祖父に共感したんだ。

そしてこれは僕の願望に近い妄想だけど、僕が演劇を決してやめられないようにきっと祖父はこれからもモノづくりをやめられないんじゃないかと思う。 そしてきっと来年の夏、新しくなにかを作り
「これが最後の作品なんだよぉ」
と言うに違いない、いや言ってほしい。 そして、そんなやめるやめる詐欺を、祖父の体が動かなくなるまで続けてほしいと思う。

鍵山大和

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