稽古場日誌

稽古場 有村 友花 2023/10/12

日常から学ぶこと

皆様、ドーブライジェン!!

最近の山の手事情社はロシアブーム。海外ツアーでは『かもめ』を上演。若手劇団員の稽古では『どん底』を題材に《四畳半》にも取り組んでいます。

《四畳半》とは山の手事情社の演技スタイル。共演者と気を合わせて、同じスピードで動いたり、同時にぴたりと止まったりします。それをほぼ即興でやるのですが、相手と気を合わせたり行動を読んだりするのは難しく、上手くいかず打ちのめされる毎日です。

その日も上手くいかず、どうしたものかと考えながら終電にのりました。すると・・・・・・

ころっ

私の左隣に座っていたサラリーマンのイヤホンが、足元に転がってきました。疲れているのでしょうね、サラリーマンはいびきをかき熟睡。起こしてはかわいそうなのでそっと拾って空いていた隣の席に置きました。しばらくするとまた、ころころっとスマホ、次はボールペンが転がってきました。仕方ないなと拾って隣の席に置きました。

そうこうしているうちに駅に着き、目覚めたサラリーマンはこの駅で降りるようで立ち上がりました。けれど隣の席にはさっき拾った物たちが残っている!! 

焦って「忘れてますよ!」と声をかけました。が、聞こえていない様子。終電だし、この駅で降りたら私は帰れなくなる。けれど、忘れ物を放置しておくのも後悔しそうと、思考だけが焦って回ります。

「すみません、忘れ物してますよ!!」

と、気がつけばサラリーマンの服の裾を必死に掴んでいました。

………。

しかし、反応がない。目は合っているのに、私のことは全く見えていないようで、目玉はいったい何をみているのか分からない。そして口元だけはニコニコ笑っている。

「あの……忘れてますよ」

もう一度言ってみたけれど、反応はなく、ただニコニコと笑うだけです。私もだんだんと怖くなってきて、手を離してしまいました。

サラリーマンは何事もなかったかのように、電車を降りて歩いていく……。

するとその時、一連の出来事を見ていた三人が落とし物を持って電車を降り、謎のサラリーマンのポケットやカバンに突っ込み、去っていきました。

救世主だ、すごい!!

別々の席に座って、面識もない、打ち合わせをしたわけでもないのに、息ぴったりで行動している。私はさっきの恐怖を忘れて、感動してしまいました。

稽古で私は、周りを見る、合わせる、そのことばかりに意識がいっていました。けれど、常に目的を共有していることが重要なんじゃないか? 目的を共有することができれば、気を合わせることはちゃんと人間に備わっている能力だ、出来ないわけがない! と《四畳半》稽古に光明が見えてきた気がしています。

普段の生活から気づけることもある!!
常にアンテナを張っておかなければ!!

と、奇妙な体験から学びを得た最近だったのですが、あのサラリーマンはなんだったんでしょう。人の皮を被った宇宙人だったのかなと今でも不思議に思うのです。

有村友花

稽古場日誌一覧へ