稽古場日誌

夏の夜の夢 鍵山 大和 2024/06/06

もうイタズラなんてしないよ絶対

ご無沙汰しております、鍵山大和です。

今回、人生初のシェイクスピアということで非常にワクワクしております。
『夏の夜の夢』ではパックというイタズラ気質の妖精が登場します。作中では、パックのイタズラによって登場人物達は右往左往し、彼らの人間関係は一晩のうちに大きく変わってしまうという事件が起こります。まったくもって迷惑な話です。
しかしかつて僕にも、あるイタズラにはまっていた時期がありました。

それは大学生のころ、友達の誕生日当日。
家でのんびりしている友達に目隠しと耳栓をして車に乗せ、30分くらい走って元の家に戻る。極めてくだらないイタズラだ。
でも、どこか違う場所に連れていかれると思った友達は、まさかの自宅でなんともいえない絶妙な表情をする。その時のなんともいえない顔がツボにはまった僕は、相手を変えてはこのイタズラを繰り返した。

そして僕の誕生日がやってきた。
日付が変わった瞬間、目隠しをされ拉致される僕、走り出す車、さあどこへ連れていくつもりだ?
予想される目的地は僕の家、仲間内の誰かの家、行きつけの居酒屋もしくは大学の部室だ。僕は全パターンのリアクションを用意していた。
しかし目隠しをはずされた僕は全くリアクションがとれなかった。
「……ど、どこ?」と僕が尋ねる、みんなはにやけていた。僕は「わかんない、マジでどこ?」
するとその中の一人(以下Aとする)が言った「俺の家だよ」。
信じられなかった、なぜならAとは特に仲がよく、彼の家は僕の家から歩いて20秒のご近所さんで頻繁にお互いの家を行き来する仲だったからだ。
僕「どういうこと? ……え? もしかして、引っ越した??」
A「そうだよ」
僕「……いつごろ?」
A「半年前」
更なる衝撃が僕を襲う。その場にいる僕以外の全員はどうやら知っている様子だった。

思い返してみるとこの半年、遊ぶのはいつも僕の家。何度も彼の家を訪れたが、彼が出ることは一度もなかった。事実を呑み込めない僕をわき目に、みんなはサプライズがうまくいったと大爆笑。
僕はなんだかひどく馬鹿にされたような気がした。
それは僕がAのことを一番仲がよい大事な友達だと思っていたからだ。引っ越しを黙っていた理由を聞いたところAはにやにやしながら「なんとなく」と言った。
その時僕の瞳の奥に涙がこみあげてきた。しかし僕はこんなことで泣くのは絶対に嫌だった。だから僕はできる限りの精いっぱいの笑顔でその場をなんとか乗り切った。

その後も、僕は彼に変わらずに接した。しかし一晩のうちに開いた僕と彼との心の距離は二度と縮まることはなかった。今だったらそんなことでと思うが、当時は本当に許せなかったのだ。
そして、もしかしたら僕がしたイタズラでこういう思いをした人がいるかもしれないと思い、少し心苦しくなった。同時にもうイタズラなんてしない、そうも思った。

『夏の夜の夢』では、かつて僕が受けたものとは比較にならない混乱がパックによって引き起こされる。そこに巻き込まれた登場人物達は果たしてどのように戸惑い、行動するのだろうか。僕だったら、そんな場面に立ち会うのは二度と御免だ。
でも僕がお客さんだったら、舞台上で悩み恥じらい暴れ惑う俳優が観たい。

だから日々、心の恥部を晒しながら稽古に臨んでおります。
本番まで2か月を切り、加熱する稽古、ボロボロになっていく僕。いい感じだ。
この夏はぜひ劇場にいらしてください。

鍵山大和

※ 舞台写真:『デカメロン・デッラ・コロナ』(2023年)

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若手公演『夏の夜の夢』
日程=2024年7月27日(土)~8月4日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

ご予約受付中!
詳細は こちら をご覧ください。

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