稽古場日誌

オセロー/マクベス 藍葉 悠気 2024/12/03

ある天才とそうではなかった僕について

こんにちは。
オセロー/マクベス二本立て公演の『オセロー』に出演します、藍葉悠気です。

『オセロー』という物語を簡単に説明すると「オセローという英雄がイアーゴーという部下の嫉妬によって策略に掛けられ、妻の浮気を疑って殺し、更には自分をも殺してしまう」みたいな話です。
人は一度嫉妬の念に駆られると、その情念からは決して逃れられず、破滅していく。
ざっくり言うと、そういうテーマの物語と捉えることができるでしょう。

さて、かく言う僕も高校時代、とある同級生に猛烈に嫉妬していたことがあります。
当時、僕は美術系の高校に通っており、そこで出会った「A君」に絵を描く能力において、圧倒的に劣っていました。
中学生までの絵を描くことに関して誰よりも秀でているという根拠のない自信を持っていた自分にとって、初めて味わう挫折と劣等感でした。そして、それは十代の僕を深く絶望させるには十分なものでした。

それから、A君に負けてはいられないと思い、高校生活の大半を絵の上達に費やしました。
しかし、自分が「これくらいやれば十分だろう」と思って描いた量の、何倍もの量をA君は描くので、その差は埋まるどころか、むしろ開いていく一方でした。
そう、A君の本当に恐ろしいところは絵の才能ではなく、絵に掛ける人並外れた情熱だったのです。

そんなA君との出会いを通して、僕は「天才」のイメージが変わりました。
それまでは天才というと、人よりも容量がよく、短い時間で上達する人といったイメージがありましたが、A君を知るにつれ天才というのは、何かひとつの事に対して常軌を逸する程に狂気的に没頭できる人のことなのだと思うようになりました。
まさにA君は、天才でした。そして、僕はそうではありませんでした。
僕は彼の絵の上手さにではなく、何よりも、絵に対する情熱で負けたことが我慢ならなかったのだと、振り返って思うのです。

という感じで、高校時代はA君に対する嫉妬の念によって、本当に辛い三年間を過ごした僕でしたが、その後もなんやかんや創作活動的なことを続けられている人生には大変満足しています。
ただ、ふと思うのは、あの当時の、A君に対する情念によって苦しみもがいていた自分は、それはそれでエネルギーはあり、そのエネルギーによって積み重ねたことが今の自分を支えているな、ということです。
あくまで『オセロー』は嫉妬によって破滅していく物語ではありますが、オセローに対するイアーゴーのように、時に嫉妬は底知れないエネルギーを人間にもたらしてくれる感情でもあります。
絶望的な劣情も、ひっくり返せば、果てなき行動力を生み出す。
この表と裏の心理もまた、嫉妬という感情の面白さなのかもしれません。

藍葉悠気

**********

劇団 山の手事情社 二本立て公演
『オセロー』『マクベス』
日時=2025年2月21日(金)~25日(火)
会場=シアター風姿花伝

詳細は こちら をご覧ください。

★『オセロー』『マクベス』omote ★『オセロー』『マクベス』ura

稽古場日誌一覧へ