稽古場日誌
その他 ニュージェネレーション 2025/07/08
2025年度ニュージェネレーション(60代前半)の熊木真智子(くまきまちこ)です。宜しくお願いします。
25歳で千葉から札幌に嫁いだ私は夫の転勤に伴い、北海道から東北の各地に暮らしていました。その後16年前に念願の首都圏へ戻り、初めての東京生活がそれは嬉しくてウキウキしたものです。早速20代の頃に歩いた渋谷・新宿・銀座etc. 若い頃の自分を追い掛けながら闊歩するも、あれ? 何かが違います。あんなに通い詰めたプランタン銀座に全くときめかず、憧れのファッションビルはすっかり老朽化して、何より大都会の雑踏に目が回りぐったりと帰宅してホッとする私がいました。確実に時は流れていたのです。
東京での生活は私世代のご多聞に漏れず、闘病中の老母を自宅に引き取り、介護が全体を占めました。そんな毎日の中で自宅に近い池上通り沿いの山の手事情社の看板が目にとまりました。若い頃に短期間所属していた劇団のキラキラとした思い出がよみがえったものの、今の私には無関係と通り過ぎる日々。幾度となく通りかかり「一日体験入団」の貼り紙を見つけ思い切って参加、世の中にはこんなに演劇好きな熱い人達がいるのだと驚いたものです。その後は「演劇ジム」に通い、様々な人と出会いながらトレーニングと実践に励みました。豆の役でも良いから、舞台に立ってみたいとほのかな想いを抱えながら。
昨年から今年にかけては私にとって大切な3人との別れが相次ぎました。事前に脳梗塞を見抜けず2年間昏睡した母の死に対する自分の至らなさ、庭で心筋梗塞で倒れたまま発見が遅れた気丈な京都の叔母の突然の訃報、そして兄同然だった札幌に住む同年代のいとこは癌闘病の末帰らぬ人となり、私をどうしようもない悲しみや怒りや後悔が渦巻きました。
長く生きていると色んな別れがあるものです。自分を応援してくれる人が少なくなった今だからこそ、この感情を目の前にある演劇で昇華する事が出来るのでは! とある日思い込んだ私は無謀にもニュージェネレーションの門を叩いてしまいました。ジョギングは亀の如く走り(そもそも亀は走らないもの?)マット運動の前転に目を回し(舞台『放浪記』で80代の森光子さんの前転がどんなに凄い事だったかと今頃認識する始末)……それでも今まさに輝いている20代のニュージェネレーション同期の背中を追い掛けて、真似して、自分の20代の頃に描いた夢に向かって頑張るしかありません。ゼエゼエ言いながら。
熊木真智子