稽古場日誌

葵上 有村 友花 2026/02/10

眩しいものこそ

これはまだ私が高校三年生の頃のお話。

受験を控えた私は予備校に通っていました。その帰り道、駅のホームで電車が来るのをボーっと待っていると、海外の方に流暢な英語で電車の乗り方を教えてあげている男子高校生がいました。
「あんなに英語が話せて羨ましいな。センターの英語の点いいんだろうな」
と思っていたら、同じ電車で向かい合って立つことになりました。
彼のことが気になり、私がチラチラ見ていたせいか、彼が話しかけてくれて、その日から駅で会えば一緒に帰る仲になりました。
彼は私よりもひとつ年下の高校二年生でした。

最初はただ、英語ができてかっこいいなくらいでしたが、ちょろい私はすぐに好きになってしまいました。
何回目かの帰りの電車の中。どこの予備校に通っているのかという話になりました。
彼は大手予備校の“河合塾”に通っている。一方私は、電車に縄文時代の恰好をした講師たちのユニークな広告が張ってある“みすず学苑”に通っていました。
それに対して彼はなんとも思っていないようでしたが、なぜか言うのがとても恥ずかしく、大手予備校に通う彼に引け目を感じるようになりました。

そして、今まで好きだった彼の素敵な部分に少しずつ劣等感を感じるようになりました。
彼の方が英単語帳の単語数が多いこと、数学ⅡBが得意なこと、彼の実家はお金持ちらしいこと、偏差値の高い学校に通っていること、可愛らしい笑顔……。

プライドが保たれず、年上である私の全てが恥ずかしい。
周りの人から、年上なのにそれでいいのかという目で見られるのではないかと不安にもなります。すると汗がだらだら流れてきて我慢ならず、トイレに行くと嘘をついて途中下車をして、彼から逃げてしまいました。
それからは彼とは会っていません。
今思えば、別に年上だとか気にせずプライドなんか捨てて話していれば、そのままいい関係でいられたのにと、後悔しかありません。

さて、『葵上』には二人の女性が登場します。
光源氏の正妻“葵上”と愛人の“六条御息所[ろくじょうのみやすどころ]”。どちらも光源氏よりも年上で、高貴な家柄であるためプライドが高いように感じます。それゆえ光源氏との関係がうまくいっていない。
光源氏は若く美しく知的。彼が輝くほどに二人のコンプレックスを刺激していたのではないかと思うのです。

年上だから周りからどう見られるかなんて気にせず、二人とも少し素直になれれば……と思うのですが、現代でも素直になれない私がいるのだから女性の恋愛がそこまで自由じゃない平安の時代では、想像だにできない葛藤が二人にはあったのではないでしょうか。

光源氏を取り巻く二人の葛藤を、現代の私たちは理解できるのであろうか。
どこまで表現できるのだろうか。
残り約一ヶ月、真剣に向き合って考えていかなくてはと思います。
とにかく頑張ります!

どんな作品になるのか、ぜひ劇場に確かめに来てください‼

有村友花

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劇団 山の手事情社 公演『葵上』
日程=2026年3月3日(火)~8日(日)
会場=小劇場B1

詳細は こちら をご覧ください。

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