稽古場日誌

葵上 ニュージェネレーション 2026/02/22

対応力を支えるもの

今回の稽古見学で印象的だったのは、俳優からの提案力、そして対応力の高さである。

冒頭のシーンを初めて見学した際、川村さんから「現代語でスタンダップコメディのようにやってみたらどうか」という提案があった。演出の小笠原くみこさんがその場で「少しやってみせて」と求めると、川村さんはそれまで古語で演じていた内容を、すぐに現代語に置き換えて演じてみせた。その斬新な提案自体も興味深かったが、それ以上に、同じ内容を即座に別の形で表現できる台本理解の深さと対応力に驚かされた。

最初はコメディ性の強さに周囲から笑いも起こっていたが、同じシーンの稽古を重ねる中で、その演技は次第に洗練され、表現としての精度が高まっていく様子がはっきりと見えた。

また、高島さんのシーンでは、光源氏が複数の女性と関わる場面を一人で演じていた。そこで、それぞれの女性との関係性の違いを表現するよう指摘が入ると、すぐに異なるニュアンスの演技を次々と試していた。一つの正解を探すのではなく、様々な可能性を提示しながら表現を精査していく姿勢が非常に印象的だった。

これは当たり前のように行われていたが、要求に対して即座に複数の選択肢を提示することは決して簡単なことではない。ニュージェネレーションの稽古を通して、私は自分の引き出しの少なさを痛感している。即興で何かを求められた時、とっさに何も出てこず、強い不安を感じてしまうことがある。準備していない状態で応えることに恐怖を感じ、即興の場面で使える表現のリストを自分なりに作り、事前に準備しておこうとしたこともあった。即興に対応できるようになるには、まず自分の中に材料を蓄えるしかないと考えたからだ。しかし同時に、「考えずにやってみて」と言われた時に、準備に頼ろうとしてしまう自分の未熟さも感じている。失敗することへの恐れが、表現よりも先に立ってしまうのだ。

劇団員の先輩方は、そのような恐れに縛られることなく、要求に対してすぐに反応し、提案し、試し続けていた。その姿を見て、この対応力は、《山の手メソッド》の核となるエチュードの積み重ねによって培われてきたものなのだと感じた。即興を繰り返す中で、失敗を恐れるのではなく、それを素材として扱う感覚が育まれているのではないだろうか。

俳優が受け身で指示を待つのではなく、自ら提案し、試し、作品を立ち上げていく。その姿は、私にとって理想の稽古場の在り方だった。

私にはまだ、そのような対応力や引き出しは十分ではない。しかし、準備を重ねることと同時に、失敗を恐れずにその場に飛び込む勇気を持つことも必要なのだと感じた。ニュージェネレーション公演までの稽古の中で、その両方を積み重ねながら、少しずつでも先輩方の姿に近づいていきたい。

野崎梨香子

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劇団 山の手事情社 公演『葵上』
日程=2026年3月3日(火)~8日(日)
会場=小劇場B1

詳細は こちら をご覧ください。

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