稽古場日誌

うプ! 藍葉悠気 2026/03/25

本当のこと

こんにちは。俳優部の藍葉です。

久々の稽古場日誌、しかも今回を最後に、しばらく書く機会がないかもしれない稽古場日誌ということで、個人的に「何故、藍葉は演劇をやっているのか?」について、書こうかと思います。

演劇を始めた理由は、通っていた美大予備校の先生から「お前が作るものが面白くないのは、お前自身が面白くないからだ」という指摘を受けて、じゃあ面白い人間になるにはどうしたらいいんだろうと考えた結果、演劇をやれば面白い人間になれるかもしれない、と思いついたことが、きっかけでした。
で、あれから20年以上の時が経ち、結果として今の僕が面白い人間になれたかどうかは分かりませんが、紆余曲折を経ても未だに演劇を続けているのは、やはり変わらず「面白い人間になるため」だろうと思っています。

さて、しかし、ではこの「面白い人間とはなんなのか?」ということを、これまでの様々な経験から自分なりに定義してみると、それは「限りなく本当っぽいことを語っている人間」ということではないかなと、近年、思うようになりました。
かのマイケル・チェーホフも「真実こそが人間を癒す」的なことを言ったらしいですが、文明が発達して、どんどん人が進化して、情報が錯綜する現代社会においては何が真実なのか、何が本当のことなのか、ということが非常に分かりにくくなっている世の中だと常々感じることは確かに多く、だからこそ、人は「本当」と信じられることに触れたときに感動したり、心が動いたり、面白いと感じたりするものかな、と思う訳です。

ただ、まさに演劇に関わっていると痛感するのが「限りなく本当っぽいことを語るのは、ぶっちゃけめちゃめちゃ難しい」ということです。
本当のことを語る、というのは、その言葉の通り、ただありのままでいればいいのかというと全然そんなことはなく、例えば、山の手事情社のメソッドのひとつにも《漫才》と呼ばれる「自分の身に起きた体験談を面白おかしく相手に伝える」という稽古がありますが、これもまた実際に自分の身に起きたありのままのことを語っていれば「本当」になるかというと、全く違います。
本当のことを語るためには、じつはかなりの技術が要るもので、その技術は表現力といった相手に伝えるための外側のパフォーマンス性と、自分自身の中にある想像力を引き出す内側のポテンシャル性の両立が重要で、これがもうめちゃめちゃ難しい。

一般的に演技といえば「嘘をつく」ことだと思われがちですが、むしろ我々は普段生きている日常の方こそ嘘をついていて、本当のことを語るために演技をするのかもしれません。
そして、その「本当」の表現というのが出来た時に、もしかしたら観ている人を「面白い」と思わせられるような、即ち「面白い人間」になれるのかもしれない、と演劇に関わって20年以上経った今、僕が演劇を続けている理由として、実感しています。

劇団休止前最後のニュージェネレーションとなる『うプ!』のメンバーにとっても、本番を通して、何かしらの「本当」を実感できる体験になって欲しいなと思うと同時に、是非ご来場の皆様にも、彼らが本気で向き合う様をご期待いただけたらと思います。

藍葉悠気

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劇団 山の手事情社 ニュージェネレーション公演『うプ!』
日程=2026年4月8日(水)~12日(日)
会場=大森山王FOREST

詳細は こちら をご覧ください。

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