稽古場日誌

テンペスト 山本 芳郎 2015/01/14

まもなく本番

そもそも「テンペスト」という芝居はなにやらモチーフのようなものがあるだけで、筋立てはそれほどドラマティックでもない。
筋を追ってもなんだかよくわからない話なのだ。
その話を今回さらに読み替えて一般的な印象とは違う「テンペスト」にしようとしている。
当然随所に色々矛盾が出てきて、足りないセリフや混乱させるセリフが出てくる。
だから難しい。
仕方がない、こういう芝居は役者が面白くするしかないのだ。

シェイクスピアはおそらくこの「テンペスト」という芝居を、
なんだか嫌な時代の到来を予感して書いたのだと思う。
ファンタジックでハッピーエンドみたいに書かれているけれど、
その裏には社会や時代に対する苦々しい思いが隠されている気がする。

それを巧妙に隠すためにメタファーに富んだファンタジックな物語の手法を使ったのだ。
宮沢賢治が深い世界を童話という手法で書き表したことと同じだ。
世話物で有名な近松門左衛門も実は時代物がメインであって、彼が生きていた江戸時代までのさまざまな社会の物語を書いている。
作家であれば自分の生きている社会を見据えた作品を書きたいはずなのだ。
シェイクスピアも、恋愛喜劇や悲劇やロマンス劇などいろいろ分類されているけど、実はすべて歴史物として書いていたのではないだろうか。
そしてこの「テンペスト」を最後の歴史物、つまり現代劇として残したのだ。
最後に書かれた作品なのに、彼の死後編纂された全集の一番最初に置かれているのも意味があるはずなのだ。
特別な思いで書き残した作品だと思う。
なんだか後味の悪い芝居になるのは当然かもしれない。

納得出来る展開はないので、お客さんには筋を追ってほしくない。
普段食べ慣れない味の料理を出すレストランに行くと思って劇場に来てほしい。
批評も文句も全部受けて立つ。 

山本芳郎

稽古場日誌一覧へ