稽古場日誌

ダイバー 田中 信介 2015/03/03

足掻け足掻け!

先日研修生の稽古を見学させてもらったところ、ちょうど「ヴォイツェク」の戯曲を使ったシーンの真最中だった。

私の研修生公演の時は台本を使ったシーンはほんの一部で10分ほどだったのだが、今回は5割近く戯曲シーンがあるとの噂。
少し羨ましいなぁと思う反面、やはり彼らが頭をグルグルさせ、自分ではない者になることへ苦戦している姿にやっぱりやらなくてよかったかも・・・なんてちょっぴり思っちゃったりもする。
まぁ戯曲を使わないからとて楽な作業になるわけでは決してないのだが。

しかしそれにしても稽古の様子は身内の私から見ても苛烈であった。
「お前が出るたびにシーンが死んでるぞ!」
「余計な事しすぎだ! 集中が違うんだよ!」
「もっと考えろ! 甘いんだよ! そんな身体をお客さんに見せられるのか!?」
等々・・・

もはやダメ出し自体が凄まじくエネルギッシュで酷く劇的である。
こんなレベルまで求めて演出するのか・・・
劇団員でもこの要求をクリアするのはなかなか骨が折れるぞ・・・
大丈夫か? 打ちのめされてドロップアウトでもしやしないか?
とつい心配になってしまうのだが、研修生達の顔をじっと見るとそんな思いは杞憂かもしれないと思わせてくれる。
悪戦苦闘しへこたれそうになってもやってやる! 私が一番おもしろくなってみせる! と訴えるかのような顔で立ち上がってくる。

おお、この1年で随分と逞しくなったものだ。なんだか役者の顔ってものになってきたんじゃないか? 本番まで残り僅かだがまだまだ一皮も二皮も剥けるチャンスは眠っている。足掻いて足掻いて足掻き続けろ! 願わくば彼らがしんどい作業をひたすら繰り返す中に、極稀に現れる何物にも代え難い表現することの喜びを一つでも多く掴み取ってほしい。

普段の彼らからは見ることのできない舞台上での魅力的な一面を是非劇場でご覧になってください。

田中信介

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