稽古場日誌

ダイバー 辻川 ちかよ 2015/03/05

ダイバーの島

公演が近づくにつれて、稽古場の建物全体がその公演の島になる。

『テンペスト』の時には『テンペスト』の島。
その前には『にごりえ』という島になっていた。

稽古場全体から漏れ聞こえる声も言葉も、匂いも、雰囲気も違う。
内装はほとんど変わっていない筈なのに、居心地さえガラリと変わる。

今は、『ダイバー』の島だ。

この研修生が島人となる期間が私にとっては一年で一番新鮮な時間だ。

本公演などの際に、見慣れた劇団員が見慣れた感じの我が物顔で稽古場を占領していても、大した新鮮味はない。
しかも見慣れた感じで難しい顔をしていたり、追い詰められた感じになっているところで、使い慣れた気を使うばかりだ。

しかし年に一度、研修生が支配する稽古場の雰囲気は独特だ。
いつも劇団員に遠慮しがちな彼等も、この期間ばかりはタガが外れ、存在感を解放させる。

今年のメンバーの最近の様子・・・

・目のやり場に困る格好でウロウロしている。

・20代から50代へのマジギレの喧嘩風景を目の当たりにする。

・前回の研修生公演の際、研修生プログラムの要項を私に求めてきた貞淑なお嬢さんが、その時とは結びつかない邪悪な顔で叫んでいる。

・秋葉原系のフィギュアが点在している。

・その大人しいTHE・草食系の仮面を剥がしてやりたいと思っていたオトメン達が、やはり変態であったと満足出来る。

・嫁入り前の娘さんが、やはり目のやり場に困る格好で、放送禁止な内容をすがすがしく叫んでいる。

カオスだ・・・。
いつ来ても、新鮮な程に無秩序な島だ。
不思議と稽古場の雰囲気は舞台に表れるもの。
どう現れるのかが楽しみだ。

彼らは常に海底の泥とまみれて、憧れのさわやかな太陽との出会いを求めているのかもしれない。
でも、そのすがすがしさを得る事など、人生においてはなかなかない。
だからもがいている。
海底の泥を身にまとわせて、自分を叫ぶ。
不思議な島人達が自分を叫ぶ日は、もう間近。

この深海にどっぷりと浸かってやって下さい。
なかなかない体験です。
深い底から掘り出した元気を、味わってみて下さい。

辻川ちかよ

稽古場日誌一覧へ