稽古場日誌

外部活動 鹿沼 玲奈 2015/07/27

みんな違って、みんなダメ(シビウ国際演劇祭2015リポート)

人間は時として、自分が何をやっているのかわからなくなることがありますよね。
山の手事情社の俳優部に所属してはいるものの、はっきり言ってこの集団が「何」なのか私は知りません。
入団理由が「一目惚れ」だったからです。
他劇団にてミュージカル俳優として教育されていた私を一瞬で方向転換させてしまったのは、2013年『道成寺』海外ツアーのゲネプロでした。イッパツで惚れた。だからそれ以前の山の手事情社のことは全く知らないし、暴露してしまえば生まれてこのかた、山の手事情社という劇団が存在していることすら知らなかった。そして今、その集団のひとりとして生活を送る日々。
これは・・・ 非常にマズイのではないか。
しかしそこは単純馬鹿鹿沼、知らないのなら、知ればいい。知るチャンスがあるのならば、逃すのはもっと馬鹿だ。
む、どうやらうちの劇団は「シビウ国際演劇祭」というのに出演しているらしい。そしてなんか、賞を取っているらしいし、安田さんは「今年はウチは出演しないし、行って来てみたら?」とか言ってる。そんじゃ、ま、行くしかねーな。

山の手事情社ファンの方々なら御存知、ルーマニアにて開催される「シビウ国際演劇祭」、今年は6月12日から21日までの10日間でした。
その間を含め5月31日から7月1日まで稽古をお休みし、わたくし鹿沼は日本からのボランティアスタッフとして2015年度のシビウ国際演劇祭に参加しました。

☆ スタッフとして演劇祭の運営の手伝いをする(スタッフの国籍割合はルーマニア人が90%といったかんじ。共通言語は英語)
☆ 準備と片付けのため1ヶ月間シビウで「生活」をする(私はドミトリーで暮らしました。写真1枚目がドミトリーのメンバー)
☆ あくまで演劇祭のホスト役として務める(シビウ市街についても詳しくなくてはいけない)

この3点が、観光や出演とは違う形で演劇祭に参加する、特徴です。
ボランティアスタッフは、ひとつの国際演劇祭がどう運営されているのか、どんな人間がどういった志で関わっているのか、それを直に体験することの出来る最高のポジションだと思います。
(今回この事業に私を採用してくださった全ての皆様に、ここでもう一度感謝を。I am grateful for your support, mayumi and petruta and more.)

しかしながら、6月の1ヶ月間の出来事は自分の中で整理がつきません。
あの1ヶ月間は毎日のように事件が起こり、それらの余波が未だに私を刺激し続けているのです。予想をしていた以上に、私はこの期間で様々なものを「感じてしまった」。
7月1日に帰国した私に、多くの人が訊ねます。
「どうだった?」
「楽しかった?」
私はその度にグッと考え込んでしまう。言葉が上手く出てこないのです。
「あの1ヶ月間に起こった、あれは一体どういうことだったんだろうか」、7月後半の現在に至るまで、シビウのことを考えなかった日はありません。
もちろんこれで良いのです。私は遊びに行ったわけではない。日本での稽古を休んで、シビウで稽古をしていたのです。
「何をしなくとも、考えさせられる事情が絶え間なく向こうからやってくる」という、俳優として願ってもいない修業の毎日だったのです。
例えば、人種の違いを思う、宗教の違いを思う、セクシャリティの違いを思う。そういった「現実」の中で、自分のアイデンティティをどう握りしめて生きていくのか。
これはやはり日本を飛び出して異文化に触れることでしかできない、「25年前まで独裁政治がなされていた国での国際演劇祭」という、特別な環境の中でしか生まれなかった状況だと思います。
シビウは夢物語のように美しい町です。でも、私たち人間が生きているのは夢物語の世界ではない。
「many difference」、多くの違いから生まれる、多くの残酷の中で、「少しの希望」を頼りに生きているのです。

安田さんはいつも私たち俳優陣に言います。
「非現実を見せてほしいんじゃないんだよ、超現実を見せてほしいんだよ」
今回、その意味が少しわかったような気がします。
希望というものは超現実の中にしかないのだと。
私は、例えば、1時間45分の舞台空間の中で、お客様に現実から逃避してほしくはないのです。
山の手事情社の(最近の)お芝居は古典が多いから、王様やお姫様が活躍するけれども、そんな非現実的な登場人物を通してむしろ現実を見つめてほしい。お客様と一緒に追求したい。
それを追求した先にある舞台は、人を惚れさせることができるんじゃないか。
その「虚構」が、人類における「少しの希望」なのではないか。
その一抹の希望のために命を注ぐのが、俳優という仕事なのではないだろうか。

山の手事情社って、たぶん、その希望のために全力投球している集団じゃないかな。
現実に立ち向かう・絶対に逃げない、そういうのってとっても苦しいことだけれど、私はそういう先輩方の「瞳の強さ」を感じて、ここに入りたいって思ったんじゃないかな。

これは、稽古場で書いています。
今日の稽古が終わって、みんながわいわい、お菓子を食べながらおしゃべりをしています。
私もわいわい言いながらお菓子をパクつき、「上手く書けないよ〜」なんて甘えた声を出しています。
今度の舞台は11月です。すこしずつすこしずつ、みんなで11月に向かって進んでいます。
国際交流は「輪踊りをすること」ではない。「Many difference を思うこと」なのだと、私は思います。この稽古場でお芝居をつくる、27人のdifferenceを早く皆様にお見せしたい。
シビウでの1ヶ月間を私の俳優人生の基盤に、これからも超現実を追い続けます。

鹿沼玲奈

シビウの中心部、ピアッツァ・マーレの夜。日が落ちるのが遅く、この写真の時は既に午後9時。

シビウの中心部、ピアッツァ・マーレの夜。 日が落ちるのが遅く、この写真の時は既に午後9時。

山の手事情社も公演したラドゥ・スタンカ劇場のバックヤード。一日の終わり、毎晩DJが音楽を流し、クラブハウスと化す。演者もスタッフも関係なく、踊り狂い酒を飲みまくる。だいたい午前5時くらいまでこの状態。

山の手事情社も公演したラドゥ・スタンカ劇場のバックヤード。一日の終わり、毎晩DJが音楽を流し、クラブハウスと化す。演者もスタッフも関係なく、踊り狂い酒を飲みまくる。だいたい午前5時くらいまでこの状態。

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