稽古場日誌

ワークショップ 三井 穂高 2015/09/16

大人のための演劇ワークショップ リポート9

「社会人の~」から「大人の~」と名前を変え、ちょっぴりリニューアルした今回のワークショップは、おかげさまで大変活気あるものになりました。
新しい参加者も増えたため、私にとっても改めて演劇の持つ魅力とハードルの高さを知る良い機会となりました。
発表会に向けての後半の数回の稽古は白熱する一方!
シーン稽古は参加者同士の、そして参加者と講師陣の戦いでした。
短い期間ではありましたが、なんとかお互い言いたい意見を言い合える関係になれたのではないでしょうか。
この戦いは、大変ですが一番面白いところでもあります。例えば・・・

「ハウスキーパー」という題で寸劇を作ったチームがあります。
メンバーはアラカンのご婦人AさんBさん
と、かなり恰幅のいい50代の男性Cさんの合わせて3名。
あらすじは引きこもりのCさんがハウスキーパーを頼み、そのうちの1人Aさんに手を出してしまうというもの。
現実でありそうでなさそうな話を狙うには、Cさんのせまり方にかかっているのですが、どうしてもアプローチが雑になってしまいます。
この設定で、どのように女の人に近づいていったら成立するのか、色々試して欲しいのですが・・・
まるで「ここで抱きつく!」というト書きがあるかのように、ガバッといってしまうのです。
きちんと相手を感じ、興奮する感覚がなかなか掴めません。

「抱きつく前にAさんを見て、この人なら受け入れてくれるかも、と感じられたら行動してください。」
「普段そうやって女の人に抱きつきますか?」
「一秒待って!」
「冗談じゃなくて、勇気を振り絞ってっていうニュアンスで。」
「そもそも引きこもりの男性がそんな攻撃的に触れらると思いますか!?」

と、試行錯誤しましたが全然だめ。
仕方がない、私が見本を! と代わりにAさんを見つめます。
ところがこのAさん、年上ではありますが実に可愛らしい方なんですよね。
次第に妙な気持ちになってしまいました。
アラカン(しかも女性)の瞳にドキドキドキドキ・・・

はっ、いかんいかーん!
己の興奮を閉じ込めてCさんにバトンタッチ。
やっぱりトドが魚を捕るごとく、ガバっと抱きついてしまうCさん。
こうなったら2人を発見し注意するBさんの演技に賭けよう! とすこし内容を変更します。
すると今度はBさんのキャラクターに問題が・・・。
私としては、百戦錬磨の上司として冷たく冷ややかな態度で注意して欲しいのですが、どうしてもヒステリックにどなってしまいます。
こんな感じでと例えて演じてみても、釈然としないご様子。
あれ、伝わらなかったかなと思ったら、

「分かりますけどぉー・・・、出来ません。」

とのことでした。恐らくBさんは普段優しい方なので、そんな態度で人に振る舞えないようなのです。
本人の中にない感覚のキャラクターを演じることは、出来なくもないですが説得力に欠けてしまいます。
これは困ったぞ…。と悩んでいたら、なんとそこへAさんが

「それ、私にやらせてください!」

と言いだしました。話聞いてたら演じたくなってきてしまったみたいなんです。
いえいえいえいえ、そしたら全部作り直しですから!
こうなったらBさんとCさんのキャラクターはそのまま残し、せまられたAさんが実はまんざらでもないということにしよう。
と、またも路線を変更し試すことにしました。

このように、時間の許す限り戦いは繰り広げられます。
途中で投げ出すことは簡単ですが、そうすればその分だけ作品の内容も軽くなってしまいます。
また、このように試行錯誤しながら共に作品を作ることが、演劇の魅力を伝える大きな手段かとも思います。
言葉に出来ないもの、温度や空気感を共有できるからです。
演劇って、手間がかかるものなんですよね! でも其処が面白い。
私は、今回の参加者のみなさんともこうして苦労出来たことが大きな喜びでした。
これで一人でも多く、演劇の魅力に獲り付かれていただけたら幸いです。
ありがとうございました。

三井穂高

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