稽古場日誌
タイタス・アンドロニカス/女殺油地獄 武藤 知佳 2015/10/01
『どうしてもやってみたかったんです・・・』
「動機は?」と聞かれれば、3歳の私はこう答えていたと思います。
犠牲者は左手の人差し指。犯人は“好奇心”に勝てなかった私自身。
当時、文房具の中でもピカイチで魅力的だったのが、ホッチキス。
「危ないから触っちゃダメ」
という親の目を盗んで、ある日、ホッチキスを右手に持った。
持ったからにはどうしても何かホッチキスしてみなければ!
白羽の矢が立ったのは、左手の人差し指。
「このむにむにした手の指をホッチキスしたら、どんな風になるんだろう」
人差し指にホッチキスを当てた時の妙な高揚感。
意を決してホッチキスしてみた後、人差し指にあいた二つの穴から血が出てくるのをみて、大泣きしながら母親に助けを求めたことは言うまでもない。
あまりよくない結果になるであろうことはきっと頭の片隅をよぎっていたはずなのに、どうしても“好奇心”に勝てなかった!!
幼心に後悔した記憶の1番古いものかもしれない。
あとになって、「なんであの時あんなことをしてしまったのか・・・」と思うことはよくあるが、なぜあの一瞬の嫌な予感に忠実にいられなかったのだろうと、心底自分に腹立たしくなる。
「女殺油地獄」は油屋の次男坊与兵衛が筋向かいの家のおかみさんのお吉を殺す殺人事件を軸とするお話である。
与兵衛は殺人という大それた仕事をしでかす時にどんな予感が頭をよぎっていたのだろうか。
もしかしたら、“好奇心”という代物が背中を押していたかもしれない。
武藤知佳
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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』、両作品が「悲劇」であることにちなんで、「私と悲劇」をテーマにした稽古場日誌を連載中です。
それぞれの生活感あふれる「悲劇」をどうぞお楽しみください。
『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html