稽古場日誌

ここ最近で一番「悲劇だ」と感じたのは…今さらヅカヲタ(宝塚オタク)になってしまったことでしょうか。
能や歌舞伎などの伝統芸能、商業やミュージカルもお勉強と思って観てきましたが、なぜか宝塚だけは機会が無く。
「なんだか気持ち悪い」という潜在意識があったのかも知れません。だって、あのポスター、あのメイク、あの発声。変ですよね?
昨年宝塚歌劇団は100周年を迎えられたのですが、100年も続くってことは何かあるのだろうと思い立ち。
そして当日券が非常に安いことに衝撃を受け、仕事後の疲労体にムチ打って聖地日比谷へ向かいました。
おやおや・・・? 想像していたものと違うぞ・・・。所詮お嬢さんの男装芸だろうと舐めてかかっていたら「大人のオトコ」がそこにいるではないか。立見の3時間があっと言う間であった。
100年もの間、日本の女子が命懸けで、オトコを追求してきたのだ。日本女子の真面目さを思うと涙が出てくる。ステージには50人以上の女子が出ていたが、トップスターから初舞台の組子のひとりまで、手を抜く瞬間が無い。
「センス」とかヤボなことを言ってはいけない。これは高校野球なのだ。高校球児並みの情熱とテンションがなければ、バカバカしくてやっていられないであろう。
だから引退が早い。やっとトップになったと思ったらあっという間に引退である。まるで蝉だ。
私がハマってしまったのは「蘭寿とむ」さんという花組のスター。「赤面王子」と呼ばれたキザりのプロである。その赤面芸はもうギャグに近い。だがそんな異様さも含めて、素晴らしい。愛おしい。彼、いや彼女は、まるで東京宝塚劇場の空気を全て掴んでいるかのように、踊る。蘭寿さまが踊ると、音楽が違って聞こえる。肉体の先にあるものがみえる・・・気がする・・・(赤面)
悲劇はここだ。退団公演でハマってしまったのだ。嗚呼なんということ!
せめて3年前にハマっていれば・・・いや半年前でもよかった・・・男役の蘭寿さまをもう一作でいい!観たかった・・・。
どれだけ悶えても、もう男役の蘭寿さまは観られない。歌舞伎の女形のように一生をかけて男役を追求して欲しい! 否! この卒業の美学が宝塚を支えているのだ! 心はすっかり乙女。そして泣きながら願う「宝塚よ永遠なれ・・・」

大久保美智子
(写真は、甥っ子にギャン泣きされる悲劇)

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』、両作品が「悲劇」であることにちなんで、「私と悲劇」をテーマにした稽古場日誌を連載中です。
それぞれの生活感あふれる「悲劇」をどうぞお楽しみください。

『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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