稽古場日誌

小学生の時の話。かなり前だけど、鮮明に覚えている。
11月に僕たちは「女殺油地獄」を上演する。当時の幼い僕は、油地獄じゃないけど、「チョコ地獄」を味わった。

小学生の時、女の子にとてもモテた。

スポーツができて、勉強もそこそこできる。クラスの中心でみんなを引っ張っていくようなタイプの人間だったから。

バレンタインデーは、毎年楽しみだった。一回だけ、物凄い年があった。

朝早くに登校して、机の引き出しを開けると名前の書かれていないチョコが。差出人不明・・・。

教室の一番後ろに扉のないロッカーがあるんだけど、そこにもチョコが。バタバタと友達が登校してきて、授業が始まる。

休み時間は、ドキドキ。男の子と女の子でキレイにわかれて、みんな大騒ぎ。氣付いたら、またひとつ、またひとつとチョコが増えていく。貰えるのが嬉しくて自分から女の子に「ねぇ、チョコくれない?」って話しかけたりもして、義理チョコを貰っていた。

貰ったチョコは、量が多くて隠しきれないから、もういいやってなってむき出しのロッカーに無理矢理おしこんでいた。

そして、6時間目の国語の授業。先生が物凄く怖い人で、いつもみんな静かにしていた。その日は、小テストがあってみんな黙々と取りかかっている時。

教室の一番後ろで雪崩のような物凄い音がした。山が崩れるような音。先生が注意しようと顔をあげたら、そこにはチョコレートの山が。

明らかに僕のロッカーから崩れ落ちたチョコレートたちだった。

みんな大爆笑。確か先生も笑ってたね。

チョコは、家まで持ち帰るのが本当に大変だった。ちなみに一晩ですべて食べ切ったけど、今考えたらあの量、致死量だったと思う。高血圧になって死んでもおかしくない。

チョコは、凶器になり得るんですね。

それとあの時の差出人不明のチョコだけど、結局誰かわからなかった。あの後、クラスの女子一人一人に聞いて回ったけど、ダメだった。

髙坂祥平

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』、両作品が「悲劇」であることにちなんで、「私と悲劇」をテーマにした稽古場日誌を連載中です。
それぞれの生活感あふれる「悲劇」をどうぞお楽しみください。

『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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