稽古場日誌

先日、両親といなかにお墓参りに行った時のこと。
伯父伯母を亡くしたが、まだ地元に住んでいる従妹宅を訪ねたところ、「もう二度と来ないでくれ」と完全に決別されてしまった。親戚たちとのもろもろの確執は確かにあったが、正直驚いた。年一回訪ねることも我慢ならないのか。

心理学者アルフレッド・アドラー先生曰く、人間の悩みはすべて、対人関係の悩みであるという。「女殺油地獄」もそのほとんど全編にわたり人間関係の恐ろしく細かい絡まりが描かれている。
人間は幸せになろうと思って生きているのに、自分の幸せへの道のりは必ずしも他人の幸せと合致しないことが多いし、他人を思い通りに動かすことなど出来ない。
私は私、あなたはあなた。
俳優や演劇は絡まった人間関係を解決することはせず、どう絡まっているのか知ろうとする特殊な職業だ。
絡まったものをより大きく、わかりやすく見せようとするのだ。
毎日、ありえない事件、おぞましいニュースが飛び込んでくる。
現実世界がそうなのに、夢や希望にあふれた楽しい演劇ばかりやっていても仕方なかろうと思う。
ただ、人間は何千年たっても同じことを繰り返す。
演劇がどれだけ警鐘を鳴らしても完璧な世界は訪れない。
この徒労感・・・。

アドラー先生はこんなふうにも言う。
物事の原因ではなく、目的を考えなさいと。
殺伐とした家庭環境や、複雑な親子関係が必ずしも”与兵衛”を生み出すとは限らないのだ。不幸を糧に偉業を残す人もいる。
与兵衛や、私の従妹の目的はなんだったのだろう。

繋がっていたはずの縁が手からこぼれ落ち、自分にはどうすることも出来ない現実が作品とリンクし、モヤモヤと落ち着かない。

そんなことを考えつつ、稽古に励んでいる。

安部みはる

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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