稽古場日誌

先日、大学時代の友人と話す機会があった。彼女はモデル並みにスタイルがよく容姿端麗、性格も良く、優しくて気配りができるステキ女子。
 
そんな彼女が言うのだ。
「私、自分のこと嫌いだし」
“えっ!?”
「私、冷たい人間だから」
“なんで!?”
嫌味な感じは全然なく、本当に実感を述べている様子。私の頭の中は“?”マークでいっぱい。
 
彼女なりの分析をよくよくきいてみると、
“自分の意見を人に押し付けることはしたくない”
と常々思っているのだという。
“自分の意見は言うけれど、できるだけ相手の意見を尊重する”
そんな彼女のスタンスが、時に“人は人、自分は自分”と突き放したような印象で受け取られ、結果“冷たいね”と言われることがあるそうだ。
 
私は彼女の“人を尊重できる”性格をすばらしい長所だと思っていたので、その話をきいて、人の受け取り方は千差万別だなぁ、と少し驚いた。
そして、“自分が嫌い”という彼女を見て、自己評価と他己評価にこんなにも差があるのかと不思議な気持ちになった。

今回の二本立て公演で上演する作品のひとつ、近松門左衛門原作の「女殺油地獄」
江戸時代に人形浄瑠璃で初めて上演され、その後、歌舞伎や文楽の人気作品となっている。
また映画化やテレビドラマ化もされている作品である。
 
“なんてダメ人間なんだろう・・・”
主人公の与兵衛に対する、初回の台本読みの時の私の感想である。
与兵衛は、油屋の次男坊。表向きは家業の手伝いをしていることになっているようだが、実際はろくに仕事もせず、親の金を使っては、遊郭通い。金が足りなくなれば、親の名前で借金もする。そして、しまいには借金を返せないことに困り果て、金のために殺人を犯す。こんなに横暴な行動をされたのでは、まわりの人たちは、たまったものではない。
 
しかし、作品についてのミーティングや読み合わせ、稽古を何度も重ねていく中で、与兵衛のいろいろな面が顔を出す。
与兵衛のしたことはよいこととは言えないが、彼だけが悪者なのか。
あのように行動せざるを得なかった理由があったのではないか。
本当はこんな風に考えていたのかもしれない。
与兵衛は自分のことをどのように思っていたのだろうか。
自分の中にも与兵衛に通じるものがあるかもしれない。
などなど、などなど・・・。
そして、これらのことは主人公の与兵衛だけではなく、登場人物ひとりひとりに当てはまることであると思う。
 
山の手事情社独自の新しい切り口で繰り広げられる「女殺油地獄」
あなたにはどんな与兵衛が、どんな世界がみえてきますでしょうか。
ぜひ、劇場でご堪能いただけましたら幸いです。

武藤知佳

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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