稽古場日誌

タイタス・アンドロニカス/女殺油地獄 辻川 ちかよ 2015/10/26

タイタス・アンドロニカスの呪い

私は、「タイタス・アンドロニカス」によって人生を変えられた。

5年前の公演を観ていなければ、慣れ親しんだ大阪を離れて東京に上京し、こんな過酷な日々に身を浸す事はなかっただろう。

この芝居は、私の分岐点であり、憧れであり、少し恨みもあり、感謝もある。

あの1時間半に取り憑かれたが故に、回した事のないエンジンを回し、公私共に引き裂かれそうな思いをしながら、自分を虐め否定し続ける羽目になっている。

もはや呪いだ。
でも、そんな現実を送っていても、戦う快感を微かに感じている。

キャストが発表された時、出演出来る喜びに、家で1人、近所迷惑な程の大きな声を出した。

ところで、山の手事情社の公演稽古をしていると、本番間近の混沌を迎える頃に「山の手パニック祭り」という、全くめでたくない祭りに陥る。

劇団員曰く、目が三角になり、呼吸が浅くなるらしい。

前回公演の「テンペスト」でのパニック祭りのメインイベントは「棺桶が上手く運べないパニック音頭」だった。

劇中に、かなり重い棺桶を運び、棺桶の中に入っている本を落とすという、一見簡単そうな動きである。
が、とにかく重い。
他のメンバーと足運びが揃わない。
何もかも上手くいかない。
申し訳なさ過ぎて、落涙寸前状態でのパニック音頭。
渋い思い出として心に刻まれている。

今回の稽古に入り、このパニック音頭が常に流れている。
水にあげられた魚の如く呼吸が浅い。
そんな中、いたずらに川村氏が「棺桶・・・」とつぶやく。
「二度と! 二度と、そのワードは出さないで下さい!」と叫びながら、パニック音頭はビートを加速させる。

あんなに立ちたかった舞台。
残酷で美しい程破滅的なあの舞台に立つという緊張が、どんどん私のパニックビートを加速させる。

やはり、呪いだ・・・
しかし、立ち向かう。
パニック音頭で踊り疲れた先には、あの世界の住人として存在出来るよう。
とにかく私は、懸命に踊るのだ。

辻川ちかよ

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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