稽古場日誌

敵役、悪役が大好きだ。何かと葛藤状態にあったり情緒不安定になったり悩みの多い正義の存在よりも、自分の欲求に忠実でシンプルで揺るがない目標を持ち、生き方に嘘がない何処までも外道まっしぐらな悪は魅力的だと思う。だいたい最後には社会のためにやられてしまうが。

「タイタス・アンドロニカス」の劇中にこのような場面がある。黒人アーロンはゴートの王子二人をタイタスの娘ラヴィニアにけしかけるためにこのようなことを言う。

「愛を求めず暴力を用いれば色事は自由だ」

ラヴィニアを手に入れたいと思っていた二人はあっさりとこの甘言にのり、ラヴィニアの夫を殺害し、彼女を手籠めにしてしまう。

私はこの場面を、恐ろしい反面とても魅力的だと思っている。
それはきっと「暴力」が、後先を考えなければ、自分の欲求を満たす手段としてとても簡単で有効だと共感できるから。そして何より彼らが社会やルールに縛られない、自由な存在に思えるから。きっと誰しも心の奥底では共感できる部分があるはず。

真似したくても現実では到底真似できない人の悪の側面。是非劇場に見に来てください。

鯉渕翼

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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