稽古場日誌
好きでいる事を辞めたい。
誰しもそんな思いを密かに持っているのではないでしょうか。
『夏の夜の夢』では登場人物がまじないをかけられて、好きなものが好きでなくなり、これまで何とも思ってなかったもの、嫌いなものを好きになってしまう。
そんな魔法の様な事は現実には中々無い様に思える。
でも僕には身に覚えがある。
第一印象が最悪で「コイツとは絶対に友達にはなれない」と思った人ほど付き合いが長く、逆に第一印象が良くて「この人とは付き合いが長くなるな」と思った人ほど縁が切れる。
小中高の部活はずっと野球部だった。高校野球を半年ほど続けたところで、魔法が解けた様にすぐに退部した。おそらく前々から少しずつ、別に好きではないと気づき始めていたのだと思う。
10歳くらいからファンになった1人のアーティストの曲ばかり聴いていた。おこづかいを使ってファンクラブにも入ったし、親にライブにも連れてってもらった。CDアルバムも持っていた。今は別に嫌いではないが、ファンかと聞かれると違う。親から「あんたファンじゃなかったっけ?」「もう好きじゃないんだろ」と言われて好きでなくなった事の罪悪感を感じる。
僕は好きを辞めてしまったのだ。しかし、好きを辞めた事で安心する僕がいた。
今思うといずれも、ある時からずっと好きを辞めるタイミングを図っていたのだと思う。
僕だけではなく、誰もがそんな覚えがあるはず。
「好き」になったものを辞める事で、「好き」でいる事の責任から逃れられる罪悪感と安心感がそこにある。
さて、そこで『夏の夜の夢』。
初めて観た時には、ただの色恋沙汰で面白いとは感じられなかった。僕には縁のない戯曲だと思った。
ところが、熱狂的な愛に没頭する4人の若い男女が「好き」の辞め時を失ってしまい、魔法をかけられた様に「好き」を辞めていく。そう読んでみると、何やら自分にも心当たりがある。これは中々解釈の幅のある面白い戯曲だと思う様になった。
もしかすると、今後付き合いが永くなる戯曲なのかも知れない。
高島領也
※ 舞台写真:『デカメロン・デッラ・コロナ』(2023年)
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若手公演『夏の夜の夢』
日程=2024年7月27日(土)~8月4日(日)
会場=山の手事情社アトリエ
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