稽古場日誌

夏の夜の夢 渡辺可奈子 2024/07/13

私の夏の夜の夢 10周年

今年、山の手事情社は40周年を迎える。それに合わせて様々なイベントが開催されるが、その中でも、劇団の過去作品の映像をアトリエで上映する『アーカイブ上映会』は入団して10年にも満たない私にとって、大変興味深い内容だ。まだ劇団の全てが若い頃の作品を拝見して、劇団としての深化の過程とそれでも変わらない核を感じることが出来、今日までの長い歴史をより身近に感じることが出来ている。今回の若手公演『夏の夜の夢』がその長い歴史の中の一端を担うのだと思うと、とても痺れる思いだ。

実は私は10年前にも『夏の夜の夢』に出演したことがある。短期大学の卒業公演がそれだった。まだ私が本当に演劇をやりたいのか、よく分からず、山の手事情社のオーディションを受けるかどうかさえ迷っていた頃である。ただ得体の知れない野心だけは満々で、私は特別だと思い上がり、誰よりも目立ちたくて、褒められたくてしょうがない学生だったと思う。
そして、男たちからモテる小柄で可愛らしい、しかし怒ると手が速くなる娘、ハーミアをやりたい! いや私しかいない! と、何故か強く思っていた。
オーディションを兼ねた一通りの読み合わせが終わると、それから1週間後に決定した配役が学校の掲示板に張り出される。上から妖精の王様、女王様、若者たち…と順番に役と配役が記載されている中、ハーミアの横に私の名前はない。どこだ! 私の名前は!

どんどん下に進んでいくと。

ボトム(職人) 渡辺 可奈子

……え!? 誰それ!!!!?

台本を開く。

うわぁあぁあぁ! ロバの人じゃん! 最悪!

ハーミアになれないどころか、間抜けなロバになってしまった私は狂った様にハーミア役に決まった子にぶちギレ、多方面の方々の気を煩わせた挙句、何のために2年間短大で演劇を学んだああああ! と喚き散らかす始末。

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ここでスタニスラフスキーの言葉をかりよう。

「小さな役などない、小さな俳優がいるだけだ。」

今思い出しても本当に、ちっちぇ、ちっちぇー。
私は見たいものだけを見て執着した結果、演劇というものをてんで分かろうとしていなかった。

結局、ボトムという役は私の身の丈には合わない、とても大きい役だった。気がついた時にはもう遅く、それでも素敵に演出していただいたので、それなりに無事に終えることができたが、課題をたくさん残して卒業する事となった。それはきっとハーミア役になれたとしてもそうだっただろう。何にも見えちゃいなかった。役の大小は必ずしも、俳優の能力の大小とイコールにはならないのだ。

思えば『夏の夜の夢』という作品も、見えていなかった物事が一夜の騒動によって少しずつ明らかになっていく話の様に思う。大学を卒業してからすぐに山の手事情社の研修生になり入団して、色々な古典作品に触れ、作品に出会うたび色々な発見をする機会をいただいている中で、初めての『夏の夜の夢』から10年。今回はどんな発見があるのだろうか。何が明らかになるのだろうか。少しは大きくなれているだろうか? あの頃から見比べられる人は数少ない。今回の公演も当時の出演者の中で唯一、ハーミア役だった子だけが観に来てくれる。あんな態度をとってしまったのにだ。10年の間で私も周りも、色々な事が少しずつ変わった。それでも変わらず見届けてくださり、応援してくださる方々に感謝しながら、私なりの『夏の夜の夢』10周年を迎えたいと思う。

渡辺可奈子

※ 舞台写真:『デカメロン・デッラ・コロナ』(2023年)

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若手公演『夏の夜の夢』
日程=2024年7月27日(土)~8月4日(日)
会場=山の手事情社アトリエ

詳細は こちら をご覧ください。

『夏の夜の夢』2024omote 夏夢チラシ 裏【完成A4】追加公演入り

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