稽古場日誌

うプ! 松永 明子 2026/04/05

勇気

『葵上』の稽古期間中、ニュージェネレーションのみんなは毎週火曜日の18時から、稽古見学に来てくれた。そして大抵、その時間は毎週同じ場面の稽古をしていて、それがわたしが演じる葵上の場面だったのである。「毎週同じシーンを見てもらってゴメンね……」と思っていた。

一方でプレッシャーもあった。相手役の男性たちは台詞が多く、シーンを立ち上げることや身のこなしをどうするかとても大変そうだったし、わたし自身もあまりお喋りしない葵上という人物をどう演じるかでだいぶ悩んでいて、正直難航していた。毎週同じシーンを見ているニュージェネレーション達からは「先週とあまり変わってないなあ」と思われているんじゃないかと、落ち込んだりもした。

それでも稽古を重ねて3月上旬、幕は上がったのである。わたしが演じる葵上も苦労を重ねたが、先輩や共演者に助けられ、そして実際の衣装を着て、実際の舞台で照明に当たると、「ああ、こう動いていいのか」と自分の思い込みが少しずつほどけ、大胆になっていくのを感じた。それがいいのか悪いのかは分からない、ただ新鮮に感じる方へいけばきっと魅力的な時間が舞台に増えるに違いない、と少しずつ演技に工夫を重ねた。本番中は誰も何も言ってはくれない、不安ながらも自分が信じるほうへと進んでいった。

2日目の夜公演が終わった時だろうか。帰ろうと劇場の外へ出ると、ニュージェネレーションの狩野真謙くんと野崎梨香子さんがいた。「寒いなか有難うございます」と声をかけると、二人はおずおずと近づいて口を開いた。劇場に入ってからの稽古とゲネプロ、そして本番を見ての感想を伝えてくれた。「以前よりも葵上が何を感じているのか分かるようになってきた」「劇場に入って、身体の調子が良くなっているのが伝わる」「刺激を受けた、自分たちも頑張ろうと思います」と。そんな事を言ってくれるなんて思いもよらず、吃驚して、でも嬉しくて「有難う」とハグをして別れた。短いやりとりだったけれど、とても励まされる出来事だった。

いろんな俳優がいると思うけれど、ニュージェネレーションのみんなが人に勇気を与える俳優になってくれたらいいな、と思っている。わたし自身がかつて山の手事情社の作品を見て「人間ってすごい、自分にもなにかできるかもしれない」と感動し、勇気をもらったからだ。今でもそうなりたい、そうでありたい、と願っている。

今年度のニュージェネレーション達はとても優しくてクレバーな人たちだと感じる。その反面すこし慎重なところがあることも感じている。そのことでそれぞれが悩んでいるらしいことも。けれど、もうとっくに勇気はある人たちなんだと思う。1年というけっして短くない時間を、山の手事情社の研修にかけると決めたこと。仲間同士たくさんぶつかって、悩んで考えて、足踏みしたり前へ進んだり、大変な苦労だったと思う。だからこそ、たくさん心を動かして、人に想いを伝えて、走る力を分け与えることができる。わたしに勇気をくれたように。

あとは『うプ!』の舞台で、自分たちのためにありったけの勇気を振りしぼってほしい。
その姿を楽しみにしています。

松永明子

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劇団 山の手事情社 ニュージェネレーション公演『うプ!』
日程=2026年4月8日(水)~12日(日)
会場=大森山王FOREST

詳細は こちら をご覧ください。

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