稽古場日誌

ニュージェネレーション(体験談)研修生 中川 佐織 2011/03/31

年間ワークショップ参加者の体験談/中川佐織

研修生ってずぶの素人の集まりなのだ。
とりあえず何かを成したいとか、演劇が好きとか、演劇に関わっていたいとか、自分にやきもきしている奴らが集まっている。
しかも、根拠の無いぼやけた思いばかり。
「経験があって、モチベーションもあります!!」
をどんなにアピールしたって、それは重い武装に過ぎなくて、ただただ脱ぎ捨てる事を要求される。
もともとは演劇なんてする事も無い、観に行く事もまったく無い、素養だってあるのか分からない。
「なんで来たの?」からのスタート。
「いや、まったくだ。でも、居座りますよ。えぇ、なにか?」
で、そのためだけにやってきた東京。初めての一人暮らし・・・ つらかった。
エアコンの無い部屋。貯金も無いのに二度の住居移動。ゆえの過密なバイトスケジュール。
こんな生活するはめになった諸悪の根源、主宰の安田・・・が、やっていた「演出家の仕事」という、大阪でのワークショップ。
すごく不完全燃焼で終わった、悲劇のワークショップ。
おかげで、「演劇ってなに?」から「演劇っておもしろいの?」と「もしかしたら、おもしろいのかも知れない」になっていき、大学で学んだ事をほっぽり出し、親に言わずに研修生のオーディションを受け、やってきた山の手事情社の稽古場。
「高級住宅街にあるのに、これかよ?!」って、勝手に騙されたと思って不安に感じた稽古場。

研修生の一年間。
ブートキャンプのような基礎訓練。
自分の人生の薄さを露呈する《ショート・ストーリーズ》。
すべりにすべりまくった《フリーエチュード》。
一人の同期の独断場になっていた《ルパム》。
胃痛をまねく個人発表の《ものまね》。
「ゲストエチューダー」という、エチューダー以外の劇団員による稽古もあった。
本体の公演では、ベタ稽古から作品が作られて本番に向かっていく様を間近で見れた。
そして、ほとんどのからみは同期のメンバーとエチューダーの二人、それと自分。
笑ったり、腹が立ったり、怒鳴られて凹んで凹んで凹んで、凹む事が気持ちよくなったら終わりだと、どうにかこうにかしようと考え、何度も失敗した。
ひどい時は失敗する事さえ出来ない日もあった。
創作するのは綺麗ごとじゃない自分を見つけて、それを見つめる作業と、現実にするための爆発するような想像力とピュアな興奮を常に用意して燃やしていなくてはいけないと、言うは易し行うは難しの現場だとも知った。
そう、研修生といえどもここは現場で、どこにいようと「山の手事情社」という集団にかかわる事は現場だった。
何かが起きないといけない。起きないなら起こさせないといけない現場だった。
筋肉は無いけど、体力だけはあった、一年。
絶対の無い人生に、最高と最悪が同時にくるような一年。
そして、私は研修生を終えて、まだ一年しかたっていない。
あの一年が今後どうなって芽を吹くのかまだ分からないし、何年か後には何でもなかった一年として生きているかもしれないが、きっとそれは無いだろうと、あの一年のすべての出会いに対して思います。

2010年度研修生 中川 佐織

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