稽古場日誌



講座の後半戦がはじまったのは2月19日。 
それから3月26日の本番まで、一気に駆け抜けたような気がします。 
相模原市でシニアのための俳優講座がはじまって3年。 
様々なことが試される公演だったと思いますが、この場所でこの講座が根付いてきているのをひしひしと感じる舞台でした。
今回の作品のテーマは、 
「目を背けたくなるような真実を知ってもなお日常生活を続け、いつの間にか風化してしまったイオカステたち」 
オイディプスの妻であり、実母でもあるイオカステは、その忌々しい真実を知って死んでしまいます。 
ところが、参加者の皆さんからよく出てきたのは、 
“知らぬが仏”という言葉だったり、 
“死ぬことはなかった”とか、
“私も息子と結婚したいと思う”とか、 
ある参加者が SMAP の「がんばりましょう」という曲を持ってきてくれたり。 
悲劇だけど、悲劇で人生が終わるわけじゃない。 
秘密を抱えながらも日常をしたたかに生きていく態度。 
そのようなイメージから倉品独自の視点が加わり、相模原の彼女たちと「オイディプス」の物語はつながっていきました。
各シーンはもちろん、BGM も、歌も、 全部参加者から出てきた材料だけで構成されます。 
急ピッチでネタ出しと構成作業が進んでいきました。
また、前回までの発表会では倉品自身が進行役をつとめていましたが、今回上演中に倉品は登場しません。 
大きなチャレンジだったと思います。 
これまでは自分のシーンだけ考えればよかったけれど、転換の段取りを覚え、シーンをつなげていかなければなりません。 
当然ながら、自分のことだけ考えるわけにはいかなくなります。 
時間との闘いが続き、体力的にも精神的にもハードだったと思います。
そんななか、ある日、長時間の稽古を終えて帰る参加者のひとりが、 
「あー楽しかった! これをやっている間はすべて忘れられる。最高!」 
と言いながら揚々と帰っていきました。 
彼女は病気を患いながら参加しているのですが、もうこの言葉に尽きるのだと思います。 
本当に特別な時間なのです。 
演出の倉品は容赦なく彼女たちの全力を引き出そうとし、その情熱にキャストが応え、スタッフ全員が引っ張られていきました。
超満員、大勢のお客様にご覧いただきながら 1 度きりの本番を終えました。 
本番をやって初めて見えてきたものがあったとか、もっとこうしたかったああしたかったという声もあり、ただ楽しいだけではない、一歩踏み込んだ次元に入ってきていると感じました。 
しかし本番が終わればまたそれぞれの生活に戻っていきます。
3 年目の集大成。 
この講座がこれからもさらに豊かに発展していくことを心から期待しています。
越谷真美
