稽古場日誌

劇団員企画 中川 佐織 2016/09/20

アトリエでの試演会『班女』

三島由紀夫の『班女』。
今回、三島の作品を何故演ることになったのか?
それは、遡れば3年前。
まだ私が劇団に入って3年目の終わりの頃だったと思う。今回の企画者で演出と出演もしている先輩の大久保美智子が、シェイクスピアの『マクベス』を演りたいと言い出した。そして、「いずれは劇場でやる!」 という野望を抱いたのだ。
きっかけは、そこから始まる。
当時、その話を小耳に挟んだ私は、ただ本番を踏みたいだけの、右も左も分からない若手の若手。でも、大久保美智子が言うんだから! というよく分からない信頼で、どんな端役でもいいから乗っからせて下さい!! と、しがみついて役をいただいた。そして、『マクベス』は劇場では無く、アトリエでの内部発表となった。
それから、3年経ち。
未だ、劇場での舞台公演は叶わず、、、。
いろいろと経て、今年の3月ころに、
「次は、『班女』やろうと思ってる。今度は、外からのお客様も呼んで」by 大久保美智子
と、稽古が始まる。
メンバーに、50代で山の手事情社の研修生を受け、今はフリーで俳優をしている小貫泰明を新しく迎え、鹿沼玲奈と武藤知佳の後輩2人がサポートにつき、稽古場には簡易の音響・照明を仕込んで、つい先日、無事にアトリエでの試演会を終えた。来ていただいたお客様、お手伝いいただいた劇団員の方々、ありがとうございました。

ここで、大久保美智子の演出作品の何がいいのか? を、お伝えしようと思う。
まず、大久保美智子の作品作りは、体造りから始まる。
身体訓練と発声を稽古時間の半分以上を使って行われる。
その訓練が、のちの演技のベースになっていく。
そして、俳優として舞台にどう存在するのか? の芝居心と美意識で、作品が構成されていくのだな、と感じる。
なので、俳優がどう芝居で空間にアプローチするかで、構成や意味合いがどんどん変化していくし、「そうするならこうしてほしい」とオーダーが入っていく。
そのオーダーが、なんとも独特。
たとえば、『班女』という作品は、想い人を待ち続ける美しい狂女と、その狂女を囲う老女の画家、想われ人である青年の3人が登場する。
私はその美しい狂女を演じたのだが、通常は儚い美しい女性で演じることが多い役でもある。しかし、大久保美智子からのオーダーは「ゴリラでやって」であった。
囲っている女から見て美しい女であればいい、という事らしい。
普通で一般的な美しさはいらないのだな・・・ と、ゴリラの映像を見まくる。
そして、想われ人の青年=吉雄を演じた小貫は50代のおっさん。
そのうえで「浮浪者でやって」であった。
吉雄は青年なのだが、大久保美智子には記憶も定かでない落ちぶれた老人で、底辺から人の本質を見ている浮浪者のイメージらしい。
このように、日常をちゃんと送れる身体や思考でやらせないのも、大久保美智子の演出の魅力だと思う。時空や空間をを超えたいのか? この人は? と思うようなオーダーや、設定を言ってきたりもしたが、その辺は割愛する。
そして、一番の魅力は大久保美智子の質のいい演技を観れることだ。
狂った役でも、役がどんな思いで生きているのかが分かるのは、すごいと思う。

さて、長々と書きましたが、何を言いたいのかというと、この場を借りて
「『マクベス』、『班女』の劇場での舞台公演をしたい!」
ということをお伝えしたかったのです。
大久保美智子の世界観は、まだまだ出し切っていないのです。
しばらくすれば、どこかで『班女』の試演会を行なう予定です。
「ここでやってもいいよ」とおっしゃる希有な方がいらっしゃれば、ぜひ、ご一報ください。
まず、観てから・・・ の方には、試演会が決まり次第お知らせを送りますので、こちらもご一報ください。

芝居には終わりが来ますが、演劇をする上では終わりはなく、戦いは続くのです。

中川佐織

大久保美智子

大久保美智子

中川佐織

中川佐織

小貫泰明

小貫泰明

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