稽古場日誌

オイディプス@Tokyo 佐々木 啓 2017/01/24

ばたふらいえふぇくと

作中「父を殺し、母と交わり子をなす」とオイディプスが授けられる神託は、ただの神話なのだろうか。現代の私たちも実は依然として強固な神託に縛られているのではないか。劇団員が自分にとっての神託を語ります。
***********************************************************************

皆さんは「ちょうちょ」という童謡をご存知だろうか?

ちょうちょ ちょうちょ
菜の葉にとまれ
菜の葉に飽いたら
桜にとまれ

という歌である。実はこの「ちょうちょ」という歌には替え歌が存在する。佐々木家バージョンである。どんな歌詩かというと、

ちょうちょ ちょうちょ
啓(ひろむ)にとまれ
啓にとまったら
啓を食べろ

といった感じである。「啓」とは僕の名前である。
初めてこの歌を聴かされたのはたしか3才くらいの時だった。因みにこの歌を作ったのは僕の姉である。実は姉は蝶々が大っ嫌いで、自分の弟だけ蝶々が平気なのが気に食わず、弟も自分と同じ蝶々嫌いにしたい一心でこの歌を作ったらしい。
この歌、ようやく色々なことが理解出来るようになってきたばかりの3才の僕には効果てきめんで、僕の中で蝶々は危険で獰猛な肉食昆虫として頭にインプットされた。更に蝶々の羽には毒があり、吸うと死ぬと教えられた。そして姉は嫌がる僕の顔面に昆虫図鑑の蝶々のページを押し付けてくる。
そんなこんなで僕は重度の蝶々恐怖症になってしまった。今でも蝶々と遭遇すると全力疾走して逃げてしまう。
中学時代の国語の授業で蝶々についての評論文を取り扱ったことがあった。教科書をめくると蝶々のカラー写真が載っていて授業中にも関わらずその場で絶叫してしまったこともある。

先生 「こら、佐々木うるさいぞ。」
僕 「すみません。蝶々の写真が怖くて、つい。」
先生 「はぁ? ふざけるな! マジメにしろ。」
僕 「いや、僕マジメに蝶々が嫌いなんです。ふざけてません!」
先生 「あぁ、わかった、わかった。後で職員室に来なさい。」
同級生 「(ザワザワ)あいつ、やべー(笑)」
といった具合だ。

最初、神託として「ちょうちょ」の替え歌を紹介しようとしたけど、これはもはや呪いの域だな。
最初は姉のちょっとした意地悪で始まった替え歌もガチガチに僕の人生を縛り上げている。抗いたいけど最早どうしようもない、抗えない。
呪いの様な神託に抗おうとしたオイディプス。結局抗うことの出来なかったオイディプス。
一見、愚かで笑っちゃいそうなんだけど他人事とは思えない。

佐々木 啓

***********************************************************************

若手公演「オイディプス@Tokyo」
2017年2月23日(木)~26日(日)
すみだパークスタジオ倉
公演情報はこちら

Oedipus@Tokyo

稽古場日誌一覧へ