稽古場日誌

オイディプス@Tokyo 安田 雅弘 2017/02/09

変態準備中の「若手公演」

劇団のメンバーは「旧人」と「若手」に大別される。
「旧人」なんて、化石人類ネアンデルタール人のようだが、言うまでもなく「古参の人」「以前から所属している人」という意味である。
これは劇団を立ち上げた頃の、大学の演劇研究会での呼称を継承したものだ。
大学では1、2年生が「若手」で3年生(3回生)以上が「旧人」だった。

当時の演劇研究会はかなりムチャクチャで、他大学の学生がぞろぞろ出入りするのはまだしも、大学OBでもない社会人がスタッフとして控えていたり、大学生と言っても留年したり、すでに中退していたりする人も多数おり、8年生を筆頭に、7年生、6年生…といった先輩たちがゴロゴロいた。
異様な熱気の中で、舞台作りに人々が集まっていたのだ。

というわけで、2年生が「若手」と呼ばれているのもしごく当然、という雰囲気だった。
含意としては、2年間この環境で我慢できたなら「旧人」にしてやろう、という考え方があったように思う。
1年過ごした、くらいでは一人前と認められない。
「旧人」にならないと先輩たちからろくに名前もおぼえてもらえない状態だった。
「えっと君は? …あ、安田クン。あの看板出しておいてくれる?」
といった具合である。

大学生としては結構無茶だったなと思うが、劇団の「旧人」はさらに年季が入っている。
平均すると入団から10年以上かかっているのではないだろうか。
「旧人」の基準は、演劇活動をしていく上で 、劇団が一人前と認めるかどうかにかかっている。
本公演で重要な役をこなしている。
ぴん芸である《ものまね》のネタを複数持っている。
他のエチュード(即興の稽古)がこなせる。
後輩たちの面倒を見ることができる。
というようなことが総合的に勘案されて、他の「旧人」たちの承認を受けて決定される。

先日、若手女優の鹿沼玲奈が大学生に「旧人」を説明していた。
「あの人たちはバケモノです。だから私たちはバケモノを目指して稽古しているわけ。」
脇で聞いていて、思わず苦笑してしまった。
そうか、そういうとらえ方もあるのか。
あながち間違いとも思えない。
確かに「旧人」に求められることは多岐で高度に渡っているし、それらをクリアしたってことはひょっとすると本当にバケモノなのかもしれない。

さて、今回の『オイディプス@Tokyo』は「若手公演」と銘打っている。
他の演劇集団なら入団5年くらいのメンバーが中心になって上演されるのが普通ではないかと思うが、私たちは違う。
入団10年近辺のメンバーが中心である。
近年の公演で、結構重要な役を演じた俳優たちばかりだ。
彼らが東京スカイツリーのふもとで、バケモノ未満からバケモノに変態する現場を目撃されるのも一興ではないだろうか。

安田雅弘

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