稽古場日誌

Anniversary 研修生 2017/03/20

決別と記念日

初めてのバイトは、高校3年生の春。
和食料理屋のフロアだった。
ご案内と、済んだ食事の下げ物を一番最初に教わった。
この下げ物。
これがそれまでの私の価値観を変えた気がする。
ゴミ箱の中へ飲み込まれて行く大量の食べ物たち。
綺麗に盛り付けられたにも関わらず、冷えたまま誰にも食べられなかった食べ物たち。

別に環境問題が云々とかは真面目に受け止めちゃいなかったし、他人が残した物を食べたいとも思わないのだが。
茶碗に米粒ひとつ残しちゃいけない、としつけられてきた身である。
大量の食べ物がゴミ箱へ落ちて行く光景とともに、純粋だった高校生の私は何かが壊れた感覚がした。

この世はなんて無慈悲なんだろう。
漠然とそう感じた。
心をこめて作った料理が簡単に捨てられてゆくことに対してか。
それまで教わってきたことと現実のギャップに対してか。
よくわからないショックがあった。
飲食店ではそんなことは当たり前のことであって、ショックなんて受ける方がおかしいのだろうが。
自分でお椀をひっくり返したあの瞬間、 私は核爆弾の投下スイッチを押したような罪悪感に駆られた。
おそらくあれが記念日だ。

あの瞬間から純粋で繊細だった私とは決別し、良くも悪くも社会に適合できる、ある種自分の感覚に蓋をする私と出会ってしまった。
あの時感じたショックが薄れていることがまたショックでもある。

この研修期間は、その自分の感覚に蓋をする私との決別が重要課題である。
社会に適合している場合ではない。
1年かけて殻を内側からも外側からもハンマーで殴って、やっと一部欠けてきた。
高校の時ともまた違った新しい自分。
わがままで頑固で汚くて全部胸張ってこれが私だと言えるような図太さを持った自分。
殻が全部剥けた姿で舞台に立ちたい。
おそらくそれが私の記念日になる。

菅原有紗

**********

2016年度研修プログラム修了公演「Anniversary」
日程:2017年3月23日(木)~26日
会場:シアターノルン
詳細はこちら

2017年度研修プログラム「俳優になるための年間ワークショップ」
オーディション開催中
詳細はこちら
■年間ワークショップ参加者体験談
■年間ワークショップカリキュラム

稽古場日誌一覧へ