稽古場日誌
遠い遠い昔の話。
人類がまだ猿だったころのこと。
男は山を越え、谷を越え、海を渡って、遠くへ遠くへ狩りにでかけました。
女は男が帰ってくるのをひたすらに待ちました。
男は獲物を手にして、帰ってきましたが、帰ってこない男もおりました。
帰ってこない男は獣に食われたか、星になったか。
男は死んだんだ。たぶん。
死んでしまった男が恨みを持つことはないが、残された女は淋しさに、恨みを、妬みを、そして憎しみを持ちました。
それは次第に膨れ上がって大きな災厄となって小さな社会にふりかかりました。
残された女の気持ちを晴らし、穢れを払うためにちょっとしたお話が必要になりました。
それが物語の起源だとぼくは思う。
かつての人類は、吹雪のなか、嵐のなか、闇のなか、獣たちの気配で充満する森のなかで、帰ってこない男の話を聞いたんだ。
「班女」は待ち続ける女の話だが、それは、人類が猿だったころまで遡ることができる古い古い物語だ。
劇場という暗がりで、ぼくたちは古老からむかしむかしの物語を聞くように、何百万年もの前までタイムスリップできる。
闇にこもり、古代からの声に耳をすまそう。
斉木和洋
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「班女」
2017年6月30日(金)~7月4日(火)
The 8th Gallery(エースギャラリー)
公演情報はこちらをご覧ください。