稽古場日誌
「…どうでしょう、いますぐ葛城さまを請け出して奥さまとし、親元と口裏を合わせて、証文の日付を前の月に遡らせます。お上へは住まいが見つかるまでこの家に逗留しておりましたと申し上げれば、伴左さまが昨日までよこされた手紙は、間男[まおとこ]の証拠。女敵討[めがたきうち]は天下のお許しゆえ、罪にはなりません。」
これは、「傾城反魂香」の物語中盤、茶屋の亭主・お辰のセリフです。
「間男」と、「女敵討」の2つの言葉、ちょっと聞きなれない単語ですよね。
夫ある女性に手を出した男に、(妻が浮気と認識していた場合は妻にも)公然のルールとして仕返しをしてよい、ということだそうです。
昔の日本は、そんなことがゆるされたのか!
最近の日本では、芸能人と呼ばれる方の浮気がやたらと取り上げられ、バッシングを浴びています。
昔の女敵討は、妻に手を出された夫の立場や世間体を守るという意味があったようです。さて、現在の日本ではどうなんでしょうね。
それから、物語序盤、近江の国の高嶋の屋形で巻き起こる騒動のところでは、
「~~銀杏の前さまは、お脇腹のため田上郡七百町の御朱印地をつけて、由緒ある家に嫁がせようという殿のお心積もり。そこで倅の伴左衛門の嫁に頂戴し、七百町をわがものにしようと企てていたものを。~~」
「お脇腹」「御朱印地」。これも聞きなれませんね。
脇の腹? お妾さんとか側室とか、正妻ではない女性の腹から生まれた、という意味です。満腹なのにケーキは食べられる別腹とはちょっと違いますね。
「御朱印地」ごしゅいんち、と読みます。意味は幕府が所有を認めた土地だそうです。
となると、上記のセリフは「側室から生まれた(正妻の子供より身分が低く扱われる)銀杏の前さまに、
土地をもれなくつけて(肩身が狭くならないように)、由緒ある家に嫁がせようという(父親である)殿のお計らい」となります。
聞きなれない言葉はありますが、俳優がしゃべっていると、不思議とふんわり分かるような気がして、現代では、ちょっと分からない文化とかしきたりを知るのも、演劇の面白いところだと思うのです。
まもなく本番が始まります。ご来場をお待ちしております。
小笠原くみこ
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『傾城反魂香』
2017年10月13日(金)~15日(日)
大田区民プラザ 大ホール
公演情報はこちらをご覧ください。