稽古場日誌

ぺとりこおる 渡辺可奈子 2018/02/05

五感をくすぐられる

現在、研修プログラム修了公演『ぺとりこおる』に向けて絶賛稽古中です。
公演のテーマは「熱中したこと」「忘れていたこと」です。
どんな作品になるのか、ご期待下さい。
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五感から過去にトリップする事がある。

例えば、聴覚から。
音楽はもちろん、明け方の鳥の鳴き声や新聞配達の音、野菜を炒める音、階段をかけ登る音、空調の音が切れた瞬間の無音……。
生活に隠れている様々な音が、いつかの何かを思い出させる。
例えば、味覚から。
いったいどんな味なのか、言葉では説明出来ないけれど、食べた瞬間、感じた瞬間にだけしか分からない、懐かしい味という物は確かに存在する。
他にも沢山紹介したいが、キリがないので割愛させていただく。

今回の修了公演のタイトルである「ぺとりこおる」正しくは「ペトリコール」(雨が降った時に、地面から上がってくる匂いを指す言葉。ギリシャ語で石のエッセンスを意味する。Wikipediaより)も同じだ。
このタイトルと「忘れていたこと」が私の中では妙にしっくりきた。
嗅覚を刺激して、過去の何かを蘇らせてくれる物の一つだからだ。
その「何か」を言語化するのはとても難しい。
しかし、私の中で無意識に記憶されているのである。
五感がくすぐられると、その当時の記憶が蘇り、頭ではなく身体が当時を思い出すのだ。
「何か」は分からない。
きっと忘れているのだろう。
忘れていることさえ忘れているのかもしれない。
それは少し寂しいことのように思えるが、忘れていた思い出が蘇るのは悪い気分ではない。

先日、研修生の稽古を見学してきた。
つい一年前までは、私もここにいたはずなのに、とてつもなく懐かしく感じた。
メンバーも違えば作品も違うのにだ。
いったい、五感のどれが刺激されたのだろう?
私の身体は確かに何かを思い出しているのに、頭はすっかり忘れてしまっているようだ。
とても思い出したいが、考えれば考えるほど薄れていく。
記憶とは、一体どこに保存されているのだろうか。

もどかしい気持ちになり、また忘れる。
きっと修了公演の稽古を見る度に思い出し、そしてまた忘れる。
それは気持ち良くはないが、悪い気分ではないのだと思う。

渡辺 可奈子

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2017年度研修プログラム修了公演「ぺとりこおる」
日程:2018年2月21日(水)~25日(日)
会場:大森山王FOREST
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2018年度研修プログラム「俳優になるための年間ワークショップ」
オーディション開催中
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