稽古場日誌

テンペスト(2018年) 河合 達也 2018/03/13

プロスペローの杖

こんにちは。
演出部の河合です。

2014年に入団し、今年で2018年。入団して4年目になりますが、『テンペスト』の初演が2015年1月で、僕が初めて経験した本公演がこの作品でした。
当時は劇団の事を何も知らなくて、勝手もわからずコミュニケーションもうまく取れず毎日恐怖だった覚えが有ります。
プロンプ(俳優がセリフに詰まったとき、セリフを教えること)もまともに入れられず、セリフのミスを指摘するときも恐縮し、演出家の怒号に怯えて話しかけられず、それでも与えられた役目は絶対にこなそうと奮闘していました。

当時与えられた仕事はいくつか有りましたが、記憶に強く残っている仕事が有ります。それは主人公プロスペローが持つ杖の製作でした。
映画の世界で魔法使いが持つ様な杖でどこかの森を探せばそれらしいものが拾えるかなと考えていたが、演出上同じ形の杖が3本必要だということが判明し、さすがにそれは見つからないだろうということで杖を作る事になりました。
長細くて折れない素材でなおかつ軽くて取り回しの効くもの。
調べてみると「塩ビパイプ」という素材が熱すれば曲がり冷めれば固まるという事が判明し、これなら変形できて重くなく、しかも折れない素材だと思い早速製作に取りかかりました。
ガスコンロに火をつけてその上で塩ビパイプをゆらゆらと熱し、柔らかくなってきたところで熱が冷めないうちに曲げる。
この作業がとても難しく、熱しすぎてパイプが焦げたり曲げすぎてパイプがちぎれたりと、何度も失敗を繰り返しました。
段々と要領が掴めてきてさらに微妙な調節を繰り返して、ほぼ同じ形の杖の芯を作り上げました。
その後は布を巻き付けて肉付けし最後に化粧の布で表面を覆う事で杖は完成に至りました。
映画で見ていた、電球がぶら下がっていたり複雑な造形なのにちゃんと木の枝に見える様な杖にはなりませんでしたが、90分という長い時間観客の目にさらせて、さらに俳優がその間ずっと持ち続けられる杖を作れた事はとても嬉しく、何度失敗しても諦めずに取り組むことができて良かったと思います。
当時の経験を経て、その後様々な映画や演劇を見る時に舞台上に現れる小道具や美術にも目が行くようになりました。
どのようにしてこれらは作られているのか、美術道具を通して作品を想像するのも楽しいと思います。

河合達也

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劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
詳細はこちらをご覧ください。

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