稽古場日誌

ルーマニア、ルクセンブルクでの公演にあたって、それぞれの歴史を調べることになった。そのなかでわかったこと。
それは、ヨーロッパの歴史は侵略と略奪の歴史だということ。

ルーマニアの国名がまさにそれを示している。
もともとあの地域はダキア人と呼ばれる人々が農耕と貿易をして暮らしていたのだが、2世紀ごろ、トラヤヌス帝率いるローマ軍によって植民地にされる。
ルーマニアとは「ローマの国」が語源だったのだ。
そしておそらく、ルーマニアの最後の「ア」はダキアの「ア」からきているのではないか、とわたしは想像している。
その後、ローマ人たちが去ってからも、モンゴル人やトルコ人達が代わる代わるやってきては、支配されてきた。

ルクセンブルクの歴史でも似たような流れがある。
フランク王国が崩壊したのち、我先にと自らの領土を手にするため、ジークフリート伯が小高い丘に小さな城を築いた。
ルクセンブルクの国名はその「小さな城」が語源とされている。ジークフリートはこの地だけでは飽き足らず、修道院の土地を避けながら領土を増やし、やがて彼の子孫から神聖ローマ皇帝が登場する。
しかし、その血もいつしか絶え、家の力は潰えてしまい、小さなルクセンブルクは野心に満ちたほかの国々に支配されてしまう。
かつてのジークフリート伯がそうしたように、だ。

そう、侵略と略奪は野心から起きる。
ちなみに野心というキーワードは「テンペスト」のなかにも潜んでいる。

ナポリ王の弟セバスティアンは、兄(今作では姉だが)を殺しその玉座を奪うという野心を芽生えさせる。
一方、もともと島に住んでいたキャリバンはプロスペローに虐げられていたが、島の主に舞い戻るという野心を自覚する。
また、そのキャリバンに唆され、プロスペローを殺し、島の王となり、なに不自由ない暮らしと女を手に入れたいという野心に目覚める者もいる。

奪う、取る、という暴力的な願望、野心。
それが歴史を動かしてきたことをシェイクスピアはよく知っていたのだろう。

さて、いまわたし達が生きている世界には侵略や略奪は起きていないだろうか。
皆さんが暮らしている世の中は平和ですか。
野心はどこにも隠れてませんか。
大きな、小さな、野心の嵐は。

小さな日本の、小さな劇団、その野心がどのように受け止められるのか。
とても楽しみだ。

松永明子

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劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
詳細はこちらをご覧ください。

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