稽古場日誌

テンペスト(2018年) 福冨 はつみ 2018/03/19

老いる楽しみ

劇団山の手事情社に入団して、間もなく16年。今年40歳を迎える節目の年。
最近、年のせいにしてついついネガティブな発言や思考に陥りがちで自分がイヤになる。

私が劇団の面接を受けたとき、安田は40歳。先輩も20代後半~30代だった。
とてもギラギラしていたように思う。
そういう人たちに付いていけるか心配だったけど、自分のやりたいことに向かう気持ち一心で入団を決めた。とても目の前が晴れていた。
でもあのときのポジティブな感じは、いま思えば無知の好奇心でしかなかった。

若いころは「自分がやりたいこと」を優先できた。
親も元気だし、体も無理がきく。
演劇初心者。知らないことも多い。とにかく吸収するのみ。
ほとんどが年上の先輩。
まとまっていない私の意見を受け止め、面白がってくれる。
1年経つごとに、後輩が増えていく。「演劇」について考える時間が増える。
安易に口にできない立場になる。後輩は思うように話せているだろうか。
的確なアドバイスはできているだろうか。親も年老いていく。
私はギラギラしているだろうか。

演劇と全く縁のなかった私が、ある縁により入団し、演劇を仕事として続けている。「演劇業界の未来」、それは金銭的には厳しい世界かもしれない。
でも、ネガティブな思考も受け止めることができているのは、「演劇」が私自身を豊かにしてくれているからだろう。

自分のことを振り返っていたら、プロスペローは若いころどんな考えをしていたのか気になってきた。それは作品のどこにも書かれていない。
でも、ミランダやエアリエルやキャリバンに対する言動は、プロスペローの人生から生まれてきたもので、なんだか親戚のおじさんを見ているようで、親しみがわいてきた。
良いことも悪いこともあるけれど、老いは老いなければ感じられないすごいことなのだと「テンペスト」を通じて、いま感じている。

福冨はつみ

**********
劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
詳細はこちらをご覧ください。

稽古場日誌一覧へ