稽古場日誌

テンペスト(2018年) 松永 明子 2018/07/23

ヨーロッパツアー浴室事情

入浴の喜びが分かるようになりました。湯船につかることで身体の緊張がとけ、ようやく一日を終えられます。最近になって、これを有り難く感じるようになりました。

ところが、ヨーロッパのホテルにはバスタブがない場合がある、といいます。

なんということでしょう。
山の手事情社のお芝居は身体を使います。とくに今回の『テンペスト』は足腰が痛くて唸らずにはいられないほどで、毎夜、湯船に浸かるのを楽しみにしていました。夜のうちにお風呂に入れなかった時は、翌朝ひどい倦怠感に襲われ、身体を動かすのが億劫になります。湯船の有無は翌日のパフォーマンスに関わるのです。そこで万が一に備え、選りすぐりのストレッチグッズを用意しつつ、渡航に臨みました。

1ヶ国目はルクセンブルク。宿のある街はかなりのんびりしたパリといった雰囲気でした。ホテルもとても綺麗です。さて、バスタブは……と浴室を見に行くと、なんとシャワーしかありません。心配した通り、バスタブがない!
これは困ったねと、同室の鹿沼玲奈と隣室を訪ねると、ありました、愛しのバスタブです。
そちらは演出助手の小笠原くみこさんと制作の福冨はつみさんのお部屋でした。先輩方に事情を説明し、夜だけ浴室を貸してくださいと伝えると、なんと「じゃあ部屋ごと交換しようか。」と言ってくださったのです。俳優は身体が資本ということで配慮してくださったのでしょう。
かくしてルクセンブルク公演は元気に迎えることができました。

続いてルーマニアのクライオーヴァ。街のはずれにある老舗ホテルにお世話になりました。劇場のある中央部はともかく、ホテル付近はルクセンブルクに比べて田舎……いえ、のどかなところだと感じました。着いたのは夜。フェスティバルのボランティアスタッフの歓迎を受け、部屋に入り、鹿沼玲奈と浴室を確認する緊張の一瞬……ところが、いえ、やはりというべきか、バスタブがありません。残念……。他の部屋もすべてシャワーのみのようです。しかしまだ4月下旬だというのに、クライオーヴァは30度を超える夏日……心地良い温度のシャワーで汗を流せるだけ、有難いと思いました。

しかし、事件は起こったのです。

本番前日、その日は22時まで劇場に残っていました。急遽、演出の変更があり、自主稽古をしていたのです。ひと段落ついて、ホテルに戻ろうとしたところ、同室の鹿沼玲奈から連絡が。

「ホテルが断水していてシャワーが使えません。」

断水!?
足はくたくた、汗もべたべた、演出の変更もある。明日は本番なのに!!? バスタブだけでなく、温かいお湯まで失ってしまいました。
しかしここで同室の鹿沼玲奈から助言が。劇場の水が出るなら、劇場のシャワーを借りては、と。クライオーヴァの劇場には3人につき一部屋、楽屋が与えられ、そして各楽屋にはひとつずつシャワーが備えられていたのです。

これは恩恵にあずかるしかない……!
残っていた先輩方に相談し、楽屋のシャワーを借していただくことになりました。

温かかったです、とても。40年近く前に建てられた劇場の、長い歴史を支えてきたシャワーでしょうか。世界各国からやってきた俳優たちの汗を流してきたのかと思うと、シャワーを浴びているだけのくせに、なんだか誇らしい気持ちになりました。

ホテルに戻るとフロントスタッフがどこかの道路の映像を見ながら「23時現在、お湯が出る部屋と出ない部屋があるよ。すまないねぇ。」と説明してくれました。画面の中の道路では、断水を復旧するための工事が行われているようでした。

クライオーヴァの街を照らす、オレンジ色のキラキラした灯りを見ながら、水道の復旧をまちつつ、翌日の本番のことを考えた夜でした。

松永 明子

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『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ
劇団山の手事情社
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TEL:03-6410-9056
MAIL:info@yamanote-j.org

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