稽古場日誌

仮名手本忠臣蔵 2018/08/20

『忠臣蔵』討ち入り瓦版 4 ~むなしく、ばかばかしく、愛おしい~

前回の投稿で話しかけて止めた、今までで最高に熱く暑かった思ひ出。

忘れもしない、山の手事情社 若手公演に向けた、サウナ超え稽古……。
当時、世田谷区に佇んでいた山の手事情社の稽古場の話になりまするが、その古い木造の建物は大いに暑さを吸収し、更に何を思ったのか、エアコンが故障した。

猛暑。……時に、「猛暑」という表現はいかがなモノか?
「暑さ」に対して、励ましているとすら受け取れる。
「猛々しい」というカッコイイ言葉は、「暑さ」に対してのお膳立ての様に思える。「もういいっ暑」とかで良いのでは? という感じの事を言っていたのはN田H樹氏だっただろうか……?
話が逸れました。

もう暑(もういいっ暑の略)。防音の為、窓を閉め切った、約20畳の部屋。約20人の稽古。外気が38℃だと想定し、約20人の内、平均して1人につき3℃気温を上げているとする。想像して頂きたいですが、既に具合の悪い方は想像を止めて下さい。
芸術の世界では欠かせない「イメージ力」ですが、過度の「イメージ力」は心身共に支障をきたします。
本当です。気をつけて下さい。
あの日、初めて暑さ故の幻を見ました。1人1人のオーラがサーモグラフィーの様に映るのです。
気づいた時には食塩を投げられていました。

長い余談で申し訳ございません。
余談から、今回の稽古場に話を繋げましょう。

大田区民プラザの稽古場は、天国の様に空調が効いています。現在大田区に移転した、山の手事情社の稽古場にも冷気を分けて貰えないだろうか? という位に涼しい。

快適な中で行われる、準備運動、発声練習、《ルパム》稽古、そして、戯曲の読み合わせ。
(※《ルパム》… 日常的な動きなどを元に創作するダンス)

しかし、快適な空間で創れる幸せは、さておきたい。

『仮名手本忠臣蔵』の世界の人たちは、どんな季節に、どんな時間に、どんな状況に身を置いていたのか?
文献によれば、討ち入りの日は元禄15年、12月14日未明となっている。真冬であろう。
寒い。
はてさて、ならば、初段のシーンは何ヶ月前なのか?
どんな月日を経て、討ち入りに至るのだろう?

「討ち入り」はこの芝居の「結果」に過ぎない。
この物語の肝は、「結果」に紡がれた「状況」であり、「状態」なのではないだろうか。
「イメージ力」というものは、心身共に支障をきたす。一般生活において、過度の「イメージ力」は必要無いのかもしれない。返して言えば、俳優にとっては、過度の「イメージ力」で心身に異常をきたして頂きたい。

出演を決めた皆さんには、其処の所は御覚悟を!
お客様においては、其れを受け取る御覚悟を!

「むなしく、ばかばかしく、愛おしい」。
私が山の手事情社の研修生公演を迎えた際に、安田氏が投げかけてくれた、忘れられない存在意義である。これは、今昔共に変わらないと信じたい。
『忠臣蔵』に描かれた人々と「現代」を生きる自分の距離を埋めるには「イメージ力」が欠かせない。
幸い、暑さに引き続き、日本の四季はやってくる。
貰える物が沢山ある。

せっかくの長丁場の稽古です。
日本人の歴史と、自分の歴史を重ねるヒントは沢山なのです。この小国の空気を、身体を、言葉を戴きましょう。

そんな中で、紡いでゆく、「むなしく、ばかばかしく、愛おしい」人達を、どうぞ客席でご覧下さい!
「現代」の毎日が、少し愛おしく感じるかもしれません。

「討ち入り」=「結果」まで、あと三ヶ月と四十七日。位!

ここから、ここから。

演出アシスタント 辻川ちかよ

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下丸子×演劇プロジェクト2018
区民参加劇『仮名手本忠臣蔵』
構成・演出=安田雅弘
原作=竹田出雲・三好松洛・並木千柳
日程=2018年12月15日(土)~16日(日)
会場=大田区民プラザ 大ホール
主催=公益財団法人大田区文化振興協会

『仮名手本忠臣蔵』チラシ(1)

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