稽古場日誌

仮名手本忠臣蔵 2019/01/05

『忠臣蔵』討ち入り瓦版 22 〜瓦版、〆ます!〜

『仮名手本忠臣蔵』の公演が終わって、1週間以上が経ってしまった今、この記事を書いています。
筆の遅い私ですが、今回は特段、筆が進みません。進められない。なぜ……。

ちょっとした大まかな思い出から。

5月、顔合わせ。
40名程の参加希望の方々と、戯曲中の60名程の役と出会う。
100人の人に一挙に出会った訳です。
パニックに陥る。パニック。

8月、講師陣によるキャスティング会議。
安田さん、大久保さん、私、3人の脳が煮沸。
あらゆる可能性を考え、永遠を感じるパズル。

9月、自主稽古期間に突入。
山の手事情社の本公演準備により、ボス達が不在。
「自主稽古担当に一任して下さい!」
言ってしもたーー! 後悔はない。
誰に見せる訳でもない達成目標企画案まで作成し、毎週末、ちかよの実験劇場。
皆様の思いがけない一面を知り、この人達の為なら何でもしたいと思える。

10月後半、本格稽古開始。
とはいえ、残された稽古期間は、一ヶ月と少し。
まずい。間に合うのか⁉︎ 川村さんも合流し、インストラクター4人、焦る。

12月、本番直前。
5月からここまで、未だ出演者全員が集まる日が一度もない。
そんな中繰り返される、通し稽古。
代役の数が半端ない。恐れ多い程の可愛い娘役やら、お侍やら、悪役やら、殿やら、浪人やら……。色々な役の感情が混在。
そして、瑣末な仕事に追われる日々。

マジですか? 気がつけばホール入り。
セットがでかい。
照明、音響などの効果が入ると、立派にも程がある。
なれない舞台に四苦八苦する出演者。
お願いですから、怪我しないで……。不安、不安、不安。

ぶっ飛んで、千秋楽舞台。
ようやく。なんとか。落ち着いて観た。
ざっと書き上げた上記の文章だが、細かい歴史を書き始めると、1,000倍にはなるだろう。

「…………ああ、この舞台に繋がっていたのか。」
理性がぶっ飛び、自分の欠片がボロボロと落ちて行く感覚と、1人1人への愛おしさが混ざり合い、涙が止まらない。1人1人と交わした歴史が押し寄せる。始終笑顔で「頑張れ」「浸れ、存分に」念を送り続けた。

そんな舞台から、もう随分経った様に感じる。
1週間後位から、あちこちから「忠臣蔵ロスです」というご連絡が。まだ気持ちが繋がっている。すごい。

以前の記事にも書かせて頂いたが、やはり人間の個人史は「むなしく、バカバカしく、愛おしい」と感じる。
『仮名手本忠臣蔵』に登場する人物達も、また然り。

なぜ、賄賂を渡してしまったのだろう?
結果、家族の生活まで巻き込み、悔やみながら死ぬ。

なぜ、あの時、上司の嫌がらせに我慢出来ずに斬りつけてしまったのだろう?
結果、愛する家族や家臣を残して切腹。

なぜ、主君と共に死なず「仇を討って死ぬ」という茨の道を選択したのだろう?
結果、四十七士は「忠義」の為に1年10ヶ月もの間、四十七様の想いを持ち、命に変えて仇を討つ。
本懐を遂げて死ぬという死生観は何なのか……。

また、この四十七士達を取り巻く人達は、やはり悲劇の中に居る。
誰ひとり幸せになる未来を描かれていない。

どれもこれも「なんでやねん」とツッコミたくなる事ばかり。むなしく、バカバカしい。

しかし、事実300年前に起きた事件から物語として紡がれ、300年経った今も根強く日本に残っている。
その「忠義心」を愛おしく想い、愛を注ぎ続け、続けてくれたご先祖様達と、受け取った私達の魂のリレーが、今回の公演なのだ。

“なぜ、この企画に参加を決めたのだろう?”

結果、どうなったのでしょう。皆様の胸に残る事を、大切にしてみてほしい。
私は、大切に大切にします。

ある日、このプロジェクトを進行して下さった、担当・Fさんが、嬉々として
「今回の出演者、スタッフ陣を合わせると、なんと四十七人なんですよ!」
と私に伝えて下さった時の表情が忘れられない。
この企画に対する執念、その中で見つけた細やかな喜びを含ませた顔に、胸を打たれ、愛おしく感じた。

これにて、『忠臣蔵』討ち入り瓦版、おひらき!
お付き合い頂き、ありがとうございました。

最後に、
この企画に関わって下さった方々の人生が、どんなにむなしい時も、貴方にとって愛おしいものでありますように。

瓦版番長こと、
演出アシスタント 辻川ちかよ

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下丸子×演劇プロジェクト2018
区民参加劇『仮名手本忠臣蔵』
構成・演出=安田雅弘
原作=竹田出雲・三好松洛・並木千柳
日程=2018年12月15日(土)~16日(日)
会場=大田区民プラザ 大ホール
主催=公益財団法人大田区文化振興協会

『仮名手本忠臣蔵』チラシ(1)

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