稽古場日誌
お恥ずかしい話ですが、私が演劇を始めたのは「共感」して欲しかった、ただそれだけだったのかも知れません。
色々なところでネタにしているのでもういいかと思うのですが、我が家はDVの家庭でした。
辛くて、幼心に。
TVの「欽ドコ(欽ちゃんのドコまでやるの?)」が見られなかった。あんな楽しい両親がいる家庭って、どんなだ?! ウチと全然違うじゃないか!
羨ましくて悲しくなるので、見ることができなかった。
ひとりで抱えきれなくなり、「それは大変だね」と言って欲しくて当時仲の良かった友人にこっそり打ち明けたのです。しかし友人の反応は「?」でした。
そりゃそうだ。友だちからしたら、家族って自分を守ってくれるもの。その家族が一番危険って「?」になるほかない。
その時です「ああ、人って分かりあえないんだ」と心の芯から感じました。
どうせ分かってもらえないんだから他人に期待しない方がいい、自分の話はしない方がいい。経験していないことは分からないんだから。私の経験は私だけのものだ。
でも、じゃあなぜ「シンデレラ」は共感されるんだ? みんな「かわいそう」って思うじゃないか。
そうか、時系列に沿って丁寧に物語を紡げば、経験していないことでも想像してもらえるんだ。
物語を手にすればいいんだ。
だから私は物語をやりたかったのです。
ところが大学に入って「物語なんかつまんねーよ」と言っている劇団がいて
物語信仰者だった私はガーンと頭の横を殴られ
つい入団してしまいました。それが山の手事情社です。
そして「なんでもいいからおもしろいことやれ」みたいな雑なお題に挑み、毎日毎日頭から煙が出るほど考え、失敗し、周りと比べては落ち込み……まあ可愛いながらも私的には地獄でした。
その中で《漫才》という稽古があり、ネタに窮して我が家のDVについて話したのです。
ウケた。
自分の家族を笑われて悲しいとか恥ずかしいとか全く思わなかった。ただただ嬉しかった。
あの時共感してもらえなかったお話は時を超え《漫才》のネタになり、笑われることで鎮魂されている。
そうやって自分を晒して鎮魂していくんでしょうね。研修生なんか晒し始めたばかりでネタの宝庫だと思います。どうぞ盛大にやってください。
大久保美智子
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2018年度研修プログラム修了公演『あたしのおうち』
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