稽古場日誌
methods&過妄女 喜多 京香 2019/05/21
私は、1996年2月7日に、宮崎県で生まれた。
それから6日後、近所でも女の子が生まれた。
その子とは、生まれて間もない頃からよく一緒に遊んだ。
その子の家は大家族で、遊びに行くといつもリビングはおもちゃやよくわからない書類でとっ散らかり、テーブルはおそらくさっき食べていたのであろうご飯でベタベタ、暴れ回る子供たち、そして怒鳴る母親がいた。
ただでさえその家は4人姉弟なのに、さらに親戚の子供たちが毎日のように遊びに集まるものだからもうめちゃくちゃで大変な事になっている。だが一番大変なのは紛れもなくお母さんである。
あっちでケンカ、こっちではイタズラ、と思ったら別の場所から泣き声。
「誰が泣かせたと! おい何やっちょっと! はーい今行くかいね! あーそれ食べちゃダメ! あーーーー!」
大戦争である。
私はリビングの端になんとか居場所を確保し、いつもそこから大戦争を眺めていた。まさに絶景だった。
しみじみとしている私に、お母さんはいつもジュースを持ってきてくれる。そしていつもこう言う。
「京香ちゃん、夜ご飯も食べていくやろ?」
大変だろうからと言って帰ろうとしても、遠慮するなという勢いに負け、いつも夜ご飯まで食べていた。
あのお母さんのそんな余裕に、私は惚れ惚れしたものだ。
《山の手メソッド》の一つに《ものまね》という稽古がある。自分の身近にいる人物や、デフォルメ、妄想で作り出した独特なキャラクター、いわゆる別人に化け、個人発表を行うものだ。
研修生当時その《ものまね》の対象を考える際に真っ先にあのお母さんの顔が思い浮かんだ。
あの大家族の存在は今や私の歴史の一つになっている。
『methods』では、劇団員たちのこんな歴史が込められた《ものまね》が見られる。
皆さま、お見逃しなく。
喜多京香
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劇団山の手事情社 創立35周年記念公演
『methods』2019年6月21日(金)~24日(月)
『過妄女』2019年6月26日(水)~30日(日)
会場=下北沢 ザ・スズナリ
詳細は こちら をご覧ください。