稽古場日誌

methods&過妄女 中川 佐織 2019/06/25

本気だった

チェーホフの『かもめ』は、「恋ばかし」と台詞であるように、恋愛話を軸に人間関係が構築されている。かのようだが、実際は様々な欲求と衝動を持ち合わせた人々で物語が織り成されている。そこから起こる言葉と行動というのは、不器用で側から見ていると面白い。ついつい登場人物に感情移入をしてしまう。お客様にも、そのあたりが伝わって欲しいな! と、ギリギリまで稽古の日々です。

ここで日誌を終わりたい……けど、今回の日誌のテーマは「恋」ということで何かあったかなぁーと色々考えました。その時は本気だったけど、今思えば、何だったのかしら? と思うことばかり。
そういえば、ある夜の遅い時間。コンビニに行くために歩道を歩いていたら、女の人が目の前でふら〜っと、車道に出ていった。その人は道の真ん中まで行くと右往左往して、車の通行を妨げている。なんて迷惑な……と思い、私も車道に出て女性を移動させようと彼女の腕を掴んだ瞬間、「離してー!!!」と叫び、泣き崩れる始末。慌てて抱きかかえようとしても、結構重い。私は近くで傍観しているサラリーマンに「ちょっと、持って! 」と思わず声を荒げてしまった。なんとか歩道まで連れて行っても、ひきつけを起こしながら泣いているので、手が離せない。可愛らしい服装と、あられもなく泣く姿を見て、あぁ、フラれたんだなと、なんとなく思う。鼻水と涙がぼたぼたと流れ、私の腕に伝ってくる。目まぐるしく色んな想いが駆け巡り、理由の分からない結果に「なんで?」と、自分を攻めているのだろう。勝手な想像だが、その瞬間はそう感じてしまい、「考えない、考えない」と、彼女の背中をさすって呟いていた。「考えない、考えない。大丈夫、大丈夫」と泣き止むまで何度も続ける。しばらくして警官が到着し、彼女の正常な状態も見ないまま、さようなら。なんで泣いていたのかはわからない。見ず知らずの女性に感情移入してしまったのは、あられもなく泣く姿に、自分の過去の、その時は本気だった恋心が蘇って慰めていたのかもしれない。

その時は本気だった気持ちというのは、何も恋だけではないと思います。夢だったり、家族への思いだったり。ぜひ、劇場に足を運び、『過妄女』の中に散りばめられた、自分の過去と今の思いを観に来てくださればと思います。

中川佐織

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劇団山の手事情社 創立35周年記念公演
『methods』2019年6月21日(金)~24日(月)
『過妄女』2019年6月26日(水)~30日(日)
会場=下北沢 ザ・スズナリ

詳細は こちら をご覧ください。

『methods』&『過妄女』

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