稽古場日誌

桜姫東文章 長谷川 尚美 2020/01/29

かぶく精神

山の手事情社では、上演に際して作品への理解を深めるために、作者や作品の特徴、その作品が生まれた時代背景などについてチームに分かれて研究をし、内部発表を行います。私のチームは、「鶴屋南北の作品について、その特徴と他の作家との違い」について調べました。

南北作品は、こうなったら次はこうなるだろうという予測が全くたちません。登場人物に感情移入しそうでしにくく「ええ!? 何でこうなるの?」という思いにかられます。
特に『桜姫東文章』は、何でもありで色々なものがごちゃまぜに入っていて、地位も関係も環境も足元から崩れていくけれど、そこにはエネルギーが渦巻いていて、非常に「怪しい魅力」があります。

南北の生きていた文化文政時代には、この凄まじい世界や違和感のあるものを舞台上で表現できる役者さんがたくさんいたのだそうです。
脚本で描かれる役者へのいじめとも言える変身のふり幅の大きさにも驚きますが、大仕掛けの舞台や工夫された道具や早替わりなど、まさに「何でもできる」役者やスタッフの「職人芸」がそれを支えていたのですね。

総じて「非常に遊びきっている」……まさに時代が生み出した南北という大仕掛人! 
かぶく精神と何でもやったるという技術と意気込み、通説をひっくり返す、裏切っていく、何でもありの自由さ! ……これは山の手事情社の芝居作りの精神にも通じるのではないかと思います。

南北作品は70年代以降にも再評価され、演劇としての可能性、芸術運動の突破口として数多く上演されてきました。先人たちの活動を受けて、私たちが表現できる南北の世界、『桜姫東文章』の世界はいかばかりか。南北の計り知れない底なし沼のような深さ、江戸の人々の能力の高さを痛感し感嘆しつつ、身体で立ち向かわねばと思っています。

春の陽ざし暖かくなる弥生3月、桜を待っての『桜姫東文章』を持ちまして、皆さまのお越しを心よりお待ちしております。

長谷川尚美

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劇団山の手事情社 創立35周年記念公演
『桜姫東文章』2020年3月14日(土)~17日(火)
会場=東京芸術劇場 シアターウエスト

詳細は こちら をご覧ください。

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