稽古場日誌

桜姫東文章 高島 領也 2020/02/05

悪役

日本の古典作品、ひいては歌舞伎にはだいたいいつも見るからに悪い奴がいる。時代劇に出てくるような悪代官のような、いつも悪巧みをしているようなあからさまな悪者。例えば過去に山の手事情社が上演した『傾成反魂香』には不破道犬という家の乗っ取りを企む悪の親玉がいる。『仮名手本忠臣蔵』には高師直という、人妻を手篭めに出来ずに激怒する悪大名が。歌舞伎作品には、シェイクスピアやギリシャ悲劇やチェーホフに登場しないような、わかりやすい悪役が居る。

今回の『桜姫東文章』もその例外では無い。先程紹介した不破道犬や高師直よりも、さらに悪そうな悪役が居る。

その名も、入間悪五郎。

名付けた親の顔が見てみたい。どんな思いで親は名付けたのだろう? もしかして区役所の手続きミスで違う名前になってしまったのだろうか。きっと幼少の頃はこの名前でいじめられた事だろう。そのイジメの経験が悪五郎を名前の通りの悪者にさせたのだろうか。悪五郎は世間が生み出した悪の権化なのだ。
などと余計な妄想が広がる。

もう1人悪役がいる。

松井源吾。

悪五郎ほど悪そうな名前ではない。
源吾は吉田家(桜姫の御家)の家臣であるが、悪五郎と手を組み裏切りを図る。
主人の逃亡を邪魔するわ、桜姫を棒で殴るわ、あまりにも不忠者なため、悪五郎の部下だと思われる事もしばしば。
源吾も、静かに野心に燃えている。
そして今回私が演じるのは、この松井源吾。

悪役は欲望に忠実だ。だからとても魅力的に思える。綺麗な姫が欲しいし、権力も金も欲しい。少しでも気に食わない奴がいると切り捨ててしまいたくなる。
欲望を抑えなくてはならない現代社会の中で欲望のままに生きる悪五郎と源吾。妬ましくも羨ましく、その姿は見ていて痛快だ。

頑張れ悪五郎、松井源吾、欲望を叶えるその日まで。

高島領也

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劇団山の手事情社 創立35周年記念公演
『桜姫東文章』2020年3月14日(土)~17日(火)
会場=東京芸術劇場 シアターウエスト

詳細は こちら をご覧ください。

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